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第三章

*第三章* 『兄さんは弱かったんだ。(アカリ)さんを愛しすぎて、目の前で彼女を失った事実に目を向けられなかった。だから狂って日向をこんな……』 ――違うよ章さん。お父さんは狂ってなんかいない。だって僕は幸せだったから。 「……あっ」  枕元に置いてある携帯の着信音で目覚めた日向は、着信画面も確認しないで慌てて通話ボタンを押した。 「もしも……」 『日向か! やっと繋がった。もう体は大丈夫なのか?』  出た途端、早口でまくし立てるように言われたから、一瞬頭が真っ白になる。 「……章さん?」 『そうだよ。一週間くらい前に電話したらお前の友達が出て、体調崩したから面倒看てるっ言われて、そろそろ治ったかと思って昨日電話したら電源が切られてたから、今日も繋がらなかったら早めに梓に行って貰うつもりだったんだぞ!』 「ごめんなさい。もう大丈夫だから」  章の話からおおよその状況を理解した日向は、素直に謝罪を口にした。  昨日家へと帰ってきてから携帯電話の電源を入れてみたけれど、新着の着信までは確認せずに眠ってしまった。きっと一週間前には浩也が電話に出て、そのあと電源を切ったのだろうと日向は思う。 「夏風邪を(こじ)らせちゃったみたいで……連絡できなくて本当にごめんなさい」 『そうか、そういえば声が掠れてるな。まだ本調子じゃないんだろうから無理はするなよ。だけど良かった』 「えっ?」 『日向が病気の時に、助けてくれるような友達ができた事がだよ。礼儀正しそうな子じゃないか、確か……北井くんだっけ?』 「う……うん、クラス委員長をしてるんだ。いつも良くして貰ってる……電話しろって言われてたんだけど、帰ってきたら眠たくなっちゃって」 『無事だと分かったからいいさ。そうそうお盆に帰るって話だけど……』  スラスラと嘘が出てくる自分に罪悪感がわいた日向は、話題が変わった事にホッとして話を続ける。 「うん、分かった。じゃあまた……梓さんにもよろしくね」  電話を切ると、日向は小さくため息を漏らした。叔父の章には嘘をついてしまったけれど、自分の事に精一杯で章を失念していたから、浩也が電話に出てくれていて助かったと日向は思う。

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