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危ないからと学校へは行かせて貰えなかったけれど、仕事の合間に父が勉強を教えてくれたし、買い物や旅行にも二人で行った。
一人で過ごす家での時間には、本を読んだり通いの家政婦さんが相手をしてくれたから、不満を感じた事は無かった。
父は内科医だったけれど、勤務先の病院が事情を考慮してくれたようで、夜には必ず帰ってきたから淋しく思ったことも無い。
精悍な顔立ちや体躯をしている章とは違い、色白で線の細かった父の優しい微笑みが、幼いころの日向にとっては世界の全てだったのだ。
『日向を灯さんの替わりにした』
そう章は言っていたけれど、本当にそうなのかは分からない。
日向が本当に幼い頃は、過保護過ぎて一歩も外へは出して貰えなかったけれど、大きくなるにつれ徐々に外へも連れ出してくれた。
日向は父を『お父さん』と呼び、生活の中で父が日向へと接する態度は『父親』のものだったと思う。
だけど、今の日向には父親の中で何かがおかしくなっていたのは分かる。
きっと……推測でしかないけれど、父は歪めてしまった事にいつからか気づいていたのではないだろうか?
修正する方法が分からなくなってしまったのではないだろうか?
いくら考えてみても答えを知る人はもういないけれれど。
そんな平和な生活は、日向が11才の時……父の死と共に失われた。
まるで眠っているみたいな亡骸は、何度揺すっても目を覚まさない。全く実感がわかなくて、日向はフワフワと夢を見ているような気持ちに陥った。
親族が見つからないということで、勤務先の病院が中心になって執り行われた葬儀へと、連れていかれた日向は誰かに渡された黒い服を着て、周りに言われた通りに動く。
『娘さん? かわいそうに……』
あちらこちらからする声と、直接かけられる沢山の声に、慣れない日向は混乱していたが、それでも……火葬場の煙突から立ち昇る煙を見た瞬間、もう父には会えないのだと実感をして涙が溢れた。
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