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 一緒に暮らしていた時は、章が仕事で不在がちだったから、梓と2人で過ごす時間が長かった。  最初の印象は『綺麗な人』で、初めは冷たく見える目元が少しだけ怖かったけれど、彼はなぜか日向にとことん甘かった。  なかなか心を開けなかった日向に根気強く付き合ってくれたし、勘も鋭くて何かあるとすぐに気付いて対応してくれた。 ――本当に感謝している。  だからこそ、心配は掛けられないと日向は心に強く思う。 「じゃあ行こうか。あまり長くいられなくて残念だけど、冬には章ともう少し長く来れるようにするから」  促され、駅に隣接するホテルへと日向と梓は向かった。  今回の滞在期間は一週間だから短いとは思わないけれど、章の生活不能者ぶりを考えると、それが限界だと日向も思う。  以前梓が日向と一緒に日本に残ると言い出した時、章は駄目だとは言わなかったけれど、 『いい大人なんだから、1人でなんとか出来るよね』 と、梓に言われて頷きながらも少しだけ青ざめていたから。 ――気の毒だけど、あの時の章さんはなんだか可愛かったな。  昔を思い出した日向は唇を綻せた。  仕事の都合でインターネット環境が必要だから、梓はホテルに滞在することになっている。 日向も一緒に泊まるのだけど、案内された部屋に入ってその広さに息を飲んだ。 「うわぁっ、すごいっ!」  窓の向こうに広がる景色に思わず声が出てしまう。  最上階の大きな窓からは広い市街が一望出来、目下に流れる川や対岸に建つ学校も良く見える。 「思ってたより広い街なんだね」 「そうだね、僕は日向君が喜んでくれて嬉しいよ。だけど……」  感心したように話す日向の横へと立って微笑んだ梓は、一旦そこで言葉を止める。 「日向くんはこの街に来てから、学校と家の往復しかしてないのかな?」 「あ……」 「やっぱりね。まだ外が怖い?」 「ううん、そうじゃ無いんだけど、勉強とかが忙しくて」  生まれ育った環境のせいで、あまり人馴れしていない日向を心配してくれたのは分かる。けれど、怖くて外出しない訳じゃなく今まで本当に余裕が無かった。  日向が学校生活にも慣れて、落ち着いた頃には浩也との関係が始まってしまったから、正確には学校と家と浩也の家との往復なのだがそれは言えない。

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