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「そう、じゃあ明日はお墓参りで、明後日は市内観光しよう。真面目なのはいいけど、日向くんは少し遊ばないと駄目だよ」
何気なく肩に手のひらを置かれビクリと震えそうになるが、それを堪えて日向は微笑み頷いた。
「心配かけちゃってごめんなさい。ありがとう……うゎっ!」
「やっぱり可愛いっ! 日向くんがいなくなってから1ヶ月くらい、僕たち良く寝れなかったんだからね」
強く抱き締められ息が苦しい。
「なんかよそよそしくて悲しかった。駅で抱きついてくれると思ってたのに」
――いつもの梓さんだ。
久しぶりに会う事に少し緊張してしまっていたのは、梓も一緒だったと分かり日向はなんだか嬉しくなった。
「僕、もう高校生だよ。可愛いとか言われても……」
「いいんだよ。日向くんは可愛い可愛い僕達の弟なんだから」
頭を撫でる優しい手のひらに張り詰めた心の糸がほぐれ、涙腺が緩みそうになるのを必死に堪える。
「ありがとう、僕も寂しかった。でも友達もできたし学校は楽しいよ。だから心配しないで」
伝えると、梓は微笑んで「分かった、良かったね」と答えてくれた。
それから、ホテル内のレストランで夕食を食べている間も、部屋に戻ってからもいろいろな話をした。
学校の事や友達の事、そのほとんどが亮や佑樹の話になってしまったが、梓は「良かったね」と笑ってくれる。
「そういえば、北井くんって子も仲良いんでしょ? ほら、風邪で寝込んでた時、面倒看てくれたって章から聞いたよ」
「うん、委員長だからなにかと良くしてくれる。家も近くなんだ」
名前が出た時少しドキリとしたけど、そういえば章と浩也は電話で話をしていたのだと思い出し、上手くやり過ごそうと言葉を返した。
「そうなんだ、面倒見が良い子なんだね。なにかお礼がしたいんだけど、会えないかな?」
「……えっ? あ…あの、お盆中は忙しいって言ってたから無理だと思う」
びっくりしてしどろもどろな返事になってしまったけれど、「それは残念」と言われただけで済んだから、日向は内心ホッとした。
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