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 リビングにあるソファーへと座りテレビの電源を入れた浩也は、ひとつ大きなため息をつく。  日向の保護者と名乗る人物から連絡が来たのは今から三日前のことで、着信画面に日向の名前が表示された時には少し驚いたけれど、電話に出ると相手は日向本人ではなく副田(そえだ)という男だった。  彼は突然の電話を、しかも本人には内緒で掛けているという非礼を詫びたあと、どうしても浩也に会って話がしたいと告げてきた。  面倒な話だとは思ったけれど、それと同時に日向の保護者を見てみたいという気持ちになり、結局浩也は梓と会う約束を交わした。 『副田梓と申します』  時間は深夜、場所は席が個室になっているカフェダイニングを指定した。  そこに現れたのは想像していたよりもかなり若い、綺麗な顔をした細身の男で、最初は血の繋がった実の兄弟なのかと思っていた。  名前を名乗ると彼は少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに表情をもとに戻す。 『コウヤ君っていうんだね。君が日向君と付き合ってるって話は、日向君の友達から聞きました』  きっと亮や佑樹から聞いたのだろう。  日向本人からはなにも聞いていないと言う梓に、浩也は出来るだけ神妙な面持ちを作って答えた。 『はい、お付き合いさせて頂いてます。男同士なので理解して頂けないかもしれませんが』 『いや、そういうのは気にしないよ。僕は日向君の叔父に当たる人の恋人だから、それに反対する資格は無い』  この春まで三人で暮らしていた事も告げられて、内心すこし驚きながらも、日向が男である自分に恋心などを抱いたのは、環境のせいもあるのかもしれないと浩也は思った。 『君は相当な人格者だとお友達は言っていたけど、心配性な保護者としては帰る前に是非会ってこの目で確かめたいと思ってね』 『それで俺を呼び出した訳ですか。本人には確認しようと思わないんですか?』  浩也の問いに梓の表情が僅かに曇る。 『自分から言ってこない限り、日向君には聞けない。僕はあの子が可愛くて仕方ない。だから、不用意に踏み込んで傷つけたくない。単刀直入に聞くけど、君は日向君の事が本当に好きで付き合ってるの? 何かで縛りつけたりはしてない?』  なにを根拠にそんな事を言うのかは分からないけれど、ポーカーフェイスで冷静そうな人物に見えた目の前の男が、眉尻を僅かに下げて日向のことを心配している。  その事に少し驚くが、この場は上手くやり過ごさなければならない。

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