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「頑張ったな」
抑揚の無い浩也の声が日向の鼓膜を震わせる。刹那、心の中に渦巻いていた感情が溢れだし、日向は自由になったばかりで感覚の無いその手を動かし、浩也の脚へとしがみついた。
「ふぇっ……うぅっ」
嗚咽を漏らす日向に対し、浩也は少し焦ったように「やり過ぎたか」と呟くが、泣いている日向の耳には届かない。
「もう、こういうのは嫌です。一緒にいられる時間に、一人にされるのは……それだけは……」
しゃくりあげながら必死に言葉を紡いでいた日向だが、脇の下へと差し込まれた手に体を持ち上げられたため、驚きのあまり動きを止める。
「え? あ……なにを」
そしてそのまま浩也に抱き締められたから、今度は言葉を失った。
「悪かった」
頭上から聞こえた浩也の謝罪に頭の中が真っ白になるが、背中をトントンと優しい手つきで叩かれる内、落ち着いてきた日向の思考は少し正常に働きだす。
(そうだ……これは罰で、僕に嫌だなんて言う資格は無かったんだ)
「ごめんなさい……ごめっ」
「いいから落ち着け」
しかも、浩也に謝罪までさせてしまった事に気づき、謝まろうとして口を開くが、言葉を紡ぎ終える前に……さらに強く抱き締められた。
一方、思わず日向を腕に抱き締めた浩也だが、先程までの怒りが治まってしまったことに気が付いて、内心酷く困惑していた。
日向が自分から抱きついたり、気持ちをぶつけて来たりしたのは初めてのことで――。
彼にとっては辛いばかりの時間だろうに、それを、『一緒にいられる時間』と言われたその瞬間、気づけば謝罪が口から滑りだし勝手に動いた自分の腕は華奢な体を抱き締めていた。
「お前は、なんで……」
浩也は不思議で堪らない。
なんでここまで尽くせるのか?
なんで酷い扱いを受けてまで、側に居たいと言えるのか?
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