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「っあ! ……え!?」
すれ違いざま、伸ばされた腕に抱え込まれ、エレベーターに押し戻されて日向は驚きに声を上げた。
慌てて腕を振り払おうとするけれど、強い力に拘束されて動けない。扉が閉まってしまう寸前、危険を感じた日向が大きな声を出そうと口を開くと、「シッ」と小さく囁く声が頭上から降ってきた。
「静かに。夜中なんだから大きな声出しちゃダメだよ……ヒナちゃん」
聞き覚えのあるその声に、背筋を冷たい物が走って日向は体を硬直させる。
恐る恐る顔を上げれば、笑みを浮かべる薄い唇が視界へと入ってきた。
「あっ」
「俺の事、覚えててくれたみたいだね。嬉しいな」
――阿由葉……聖一っていう人だ。
視線が絡んだその瞬間、本能的な恐怖がこみ上げ日向の体はカタカタと震えだす。
「こんな所で会えるなんて、今日はついてるみたいだ」
笑みを浮かべる彼とは反対に、日向は表情を強ばらせた。
「あ、あのっ……僕、帰るんで……離して下さい」
「嫌だよ。せっかく会えたんだから」
目を会わせるのが怖かったから、俯いた日向はなんとか声を絞り出すが、あっさりと却下されてしまう。
震える体は聖一の腕に抱き込まれていて身動きが取れず、このままでは浩也の部屋へと逆戻りだと考えた日向は、さらに必死に言葉を紡いだ。
「き……北井くんの家には、お客さんが来てるから……」
ドアの閉まったエレベーターはまだ動いてはいないから、それを伝えれば聖一はこのまま帰るだろうと思ったのに……。
ククッ……と、聖一が喉で笑う声が空気を揺らした。
「……へぇ。浩也は他の相手とお楽しみ? ヒナちゃんはそれで追い出されちゃった?」
愉しそうに尋ねる声に、斗和の顔を思い浮かべた日向が体を揺らした途端、髪を掴まれて後ろに引かれた。
「いたい!」
無理やり上向きにされてしまった日向の顔を見下ろしてくる聖一は、一見優しそうに見えるけれど、頭の痛みがそれは違うと伝えてくる。
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