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「図星みたいだね。こんなにヒナちゃんを泣かせるなんて……アイツは酷い男だ」
この状況にはそぐわない惚 けたような彼の口調に、狂気の色が見えた気がして日向は初めて会った時、本能的に感じた恐怖が間違いでは無かった事をはっきりと確信した。
――逃げなきゃ。
「離して下さいっ……離してっ」
言いながら、体を捩って逃げようとすると、更に髪を後ろに引かれて日向は痛みにちいさく喘ぐ。
「心配しなくても浩也に用は無いから大丈夫。ねぇ……ヒナちゃんと最初に会った時、浩也はエントランスに俺を招き入れた?」
「あっ」
唐突な質問に頭の中が混乱するが、そういえば……このマンションは中から開けて貰わないとエントランスに入る事も出来ないのだと思い至ると、もう一つの可能性に気づいた日向は愕然 とした。
「多分、当たりだよ」
嬉しそうに聖一が目を細めた時、エレベーターが上昇を始める。
「浩也が買ったって聞いたから、俺もここにしたんだ。何かと便利だしね。ヒナちゃんの事、貸してくれるって言ってたのに、なかなか回してくれないから待ちくたびれちゃった」
――貸すって僕を? なんでそんな……。
耳元へと囁かれた声に絶望的に気持ちになった日向だが、そんな言葉は信じられないし信じたくない。どうにか腕を振り払おうと必死に抵抗するけれど、彼はびくともしなかった。
「無駄だよ。結果は同じだからヒナちゃんに選べるのは方法だけ。大人しく家に来るか、抵抗してちょっと痛い思いをしてから家に来るか」
「僕は帰ります。帰してください」
そんな事を言われても、納得なんてできる筈も無く日向は必死に足掻くけれど――。
「っぐぅ!」
片方の手のひらによって仰け反った首を掴まれたから、苦しさに日向は呻いた。
引き剥がそうと聖一の手に爪を立てて引っ掻くと、首を絞めてくる彼の指へと力がこもる。
「……っ!」
息ができない苦しみに、ビクッビクッっと体が痙攣し始めた。
知らずに流れた涙が頬を伝い落ち、じわりじわりと強まる力に顔を真っ赤に染めた日向の口からは、ヒュッと空気の漏れる音がして――。
「……だから無駄だって言ったのに」
すでに目的の階へと到着しているエレベーターの中、ぐったりと力の抜けた日向の体を抱き止めた聖一が低く呟く。
どこか遠くを見ているみたいに虚ろな瞳をしている日向は、絞められたせいで赤くなってしまった首へと指を這わされても、逆らうことはもうしなかった。
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