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遡ること一時間前。
「どうぞ」
リビングに招き入れた斗和をソファーへと促した浩也は、自分もその斜め向かいへと腰を下ろした。
「で?」
素っ気なく要件は何なのだと尋ねる浩也に、斗和はぎこちない笑みを浮かべる。
「久しぶりだね。浩也くん」
見つめてくる瞳に宿 る思い詰めたような色に、浩也は内心舌打ちをした。
夏休みに入ってから頻繁にあった着信を、ことごとく無視してきた浩也には、本当は用件など聞かなくても分かっているが、その連絡を寄越 すのがいつも目の前にいる斗和だというのが気に入らない。
本当は、父親から直接連絡が来ない限り電話に出る気は無かったのだけど、よりにもよって気を失った日向の体を綺麗にしている最中に鳴ったものだから、身動 ぎをした日向を見て、慌てた浩也は相手も確認せずに出てしまったのだ。
出なければ斗和はきっと諦めた筈だから、浩也はゲストルームに携帯を持ち込んだ事を後悔したが、それもすでに後の祭りで……しかも、もう近くまで来ているから、浩也が居なくてもマンションの前で会えるまで待つつもりだと言われてしまえば仕方なかった。
そんな事をして、斗和が不審者扱いでもされたら厄介だ。
「墓参りなら一人で行ったから」
聞かれる前に答えてやると、斗和が驚いた顔をした。
「なんで?」
――なんで、だと?
「へえ……貴方 がそれを聞くんだ? 息子への連絡を愛人にさせるような父親と、秘書に成り上がった愛人と一緒に、母さんに手を合わせろって?」
見ているだけで苛立ちが募るが、あえて冷静な声音で答えると、斗和の表情がはっきりと強ばる。
「どうせ俺と連絡が取れないからって二人で行ったんだろ? 様子を見てこいって言われて来たなら、勉強やら生徒会の手伝いが忙しいとでも言っておけばいい。それに、俺にされてた事忘れた訳じゃ無いんだろ? 一人で来るなんて随分と無用心なんじゃないのか?」
唇に薄く笑みを浮かべて馬鹿にしたような口調で告げれば、斗和の瞳が悲しそうに揺れたから、このまま泣いてしまうのでは? と思ったが、予想に反して斗和は膝に置いた手のひらを握りしめ、浩也を見つめて口を開いた。
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