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「克也さんは仕事が忙しいから、なかなか連絡ができないと言ってました。浩也くんももう高校生だから自由にさせてやれって……だけど、浩也くんが家に帰って来ないのはきっと僕が居るせいだよね? 出て行かなくていいって浩也くんに言われて、その言葉に甘えたけど、そのせいで克也さんと会わないなら、やっぱり僕はあの家を出て行くから……君が望むならまた抱いてくれてもいい。だから、克也さんとは会って欲しいんだ」 「随分な綺麗事だな。自分は何をされても、身を引いてもいいから親子で仲良くしてくださいって?」 ――ふざけるな!  浩也は心の中で叫ぶ。  実家に帰らなかったのは、子供のようにごねて二人を引き離そうと思ったからでは無く、斗和に会ってしまえば更に罪を重ねてしまいそうで怖かったからだ。 「……身は引けない。家を出ても克也さんからは離れられない。だけど、僕が家を出れば、浩也くんは克也さんと会えると思うから」 「へぇ、都合のいい話だな。結局、自分の罪を軽くしたいだけって訳だ」 「そんな事、思ってない。克也さんだって君に悪いと思ってるから強くは言えないけど、君に会いたいと思って……」  自分の失言に気がついた斗和が途中で言葉を切るけれど、もう遅い。 ――ああ、そうか。  その言葉で浩也はすぐさま理解した。  父親は、斗和との関係が浩也に知られている事を把握しているのだと。  そして、斗和が軽くしたいのは、斗和自身の罪などではなく父親の罪なのだと。 ――全ては父さんのため……か。  浩也は立ち上がり、斗和の肩を強く掴んだ。 「浩也くんっ、違うんだ!」 「なにが違う? 父さんは俺に知られているのを分かってて、それでもお前を家に住まわせたんだろ?」 「それは違う! あの頃は知らなかった」 「じゃあ俺がお前を抱いてからか?」  言葉を放ったその瞬間、斗和の体が僅かに強ばったのを感じ取り、浩也は眉間に皺を刻んだ。 「それも知ってるんだ」 ――だったら全て合点がいく。  一人暮らしをしたいと言った時、なにも聞かずに許可したことも、自分から連絡をして来ないことも。  ただの愛人に父は騙されているだけだ……と、思い込もうとしてきたけれど、結局父は斗和を守る為に自分のことを切り捨てたのだ。  浩也になにも言わずにいるのは罪悪感があるからなのか? 斗和を凌辱した浩也への怒りからなのか? いずれにしても父が浩也に会いたいなどと思うはずがない。 「結局、家族より愛人が大事かよ!」  優等生を演じてきたのはなんの為だったのかと思った浩也は、気がつけば声を荒げて叫んでいた。

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