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「浩也くん、違うんだ! 落ち着いて僕の話を聞いて欲しい……克也さんは浩也くんを追い詰めてしまった事に心を痛めてるから、だから君に会えずにいるんだ」  懸命に宥めようとする斗和の声がするけれど、信じることなどできやしない。 「心を痛めてる? だったら……知ってるなら、なんでなにもしないでいる」 「それは……」  言葉に詰まる斗和を見て、浩也は暗い微笑みを浮かべた。 「嘘なんだろ、斗和さん。本当は俺が全然顔を見せないで、墓参りにも一緒に行かないっていうのが父さんにとって体裁が悪いから、だから気を回して来たんだろ?」  感情の籠らぬ声で告げれば、斗和が息をコクリと飲む。 「そんなつもりは……」  小さな声で異を唱える斗和を浩也は鼻で笑った。結局、この二人は自分達の事しか考えてはいない。  斗和を守る為、自分は父に切り捨てられたのだ。  そう結論付けた浩也の心は、父親への失望感と歯止めが利かない憎悪の感情に埋め尽くされた。  不毛な事をしようとしていると頭の中では解っていても、感情が伴わない。 「言い訳は要らない。俺が望むように……だっけ? 抱かれるつもりで来たなら、お望み通り抱いてやるよ。そうすれば、たまには家に帰ってやる。父さんが知ってることを俺が知ってるのも黙って上手くやってやるよ」  ゲストルームには日向が寝ていて、先ほどまではそのまま朝まで休ませてやろうと思っていた浩也だが、そんな考えはすでに頭の中に無い。 ――見ればいい。お前等が俺に見せた物が、俺をどう変えたのかを。  言い放った冷たい声に、斗和は一瞬目を見開いたが弱々しく頷いた。  本当は、自分じゃ抑えることの出来ない激情を、日向に止めて欲しかったのかもしれない。だけど、その地位も権利も与えていない彼が、やめてと言える筈も無いことも知っていた。  なおも日向を繋いだ理由は、自身の嵐が過ぎ去ったあと優しくするつもりだったから。そうすれば済む話だと……簡単に考えていたから。  だけど、それは完全に自分の都合で、日向の気持ちを考えていないという事に、今の浩也は気づかない。  (のち)に自身の過ちに気づいた時には、もう取り返しのつかないような状況になってしまっていた。

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