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 ***  どうにか辿(たど)り着いたアパートの玄関へと入った日向は、鍵をかけると靴を脱ぎ、フラフラとした足取りでバスルームへと向かって歩く。  先ほどからの雷雨でずぶ濡れになってしまった洋服から、ボタボタと落ちる滴が通った床へと跡を作るけれど、今の日向には気にするだけの余裕も無かった。  結局、夜が明けてからも長い時間続いた激しい凌辱の果て、意識を飛ばしてしまった日向が目を覚ましたのは夜半になってからだった。  部屋を見回せば、隣で貴司が寝息を立てているだけで、他には誰もいなかった。  外は土砂降りで雷音も鳴り響いていたが、正気を取り戻した日向は一秒でも早くそこから逃げ出したくて、かき集めた洋服をどうにか身に付け部屋を飛び出すと、雨の中を必死に歩いて自分の部屋まで戻って来た。  バスルームに入った日向は水に設定したシャワーを頭にかけてから、肌が赤くなるまで体を何度も洗い続ける。  真夏とはいえ、雨にさらされた体は冷えてしまっているから、更に水をかぶることでガタガタと震えだしたけれど、日向は全く気にならなかった。 『淫乱』  行為中、何度も言われ続けた言葉が頭の中へと鳴り響き、日向はそれを振り払うように頭を横へと振るけれど、洗っても洗っても自分の体は少しも綺麗になっていないと感じてしまう。 「汚い」  はしたなく乱れた自分を思い出し、日向は小さく呟きながら体を何度も洗い続ける。  今までは、相手が浩也だから受け入れる事が出来るのだと思っていた。  けれど……媚薬のせいにしてみても、淫らに求め続けてしまった事実は今さら変えようも無くて、自分は淫乱な人間なのだと思ってしまった日向の心は、ボロボロに傷ついている。 「うっ…うぅっ」  涙腺が決壊したかのように次々と溢れる涙に、日向は静かに嗚咽を洩らした。  長い時間を掛けたシャワーからあがった後、ようやく部屋に入った日向は、机の上に置かれた写真をぼんやりと眺めてから、歩み寄ってそれを伏せた。  写真の中で微笑みを浮かべる自分の顔と、その横で快活に笑う浩也の顔。幸せそうに見える2人を見ているだけで今は辛い。 ――もう二人では会えない……会える筈がない。

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