――無理して笑うなよ。 　込み上げてきた言葉を飲み込み、佑樹は濡らしたタオルを手に取って日向の顔を拭っていく。 　そうするうち、彼の体が自然に強ばっている事に気づき、なるべく手早く作業を終えると日向が薄く瞼を開いた。 「なんで……」 「その話はあとでする。俺の兄貴が医者だから呼んで点滴をして貰った。少しは楽になる筈だから今は休んで。なにか食べ物持ってくる」 　なぜ佑樹がここに居るのかを聞きたかったのだろうけれど、返した言葉に日向は視線を彷徨わせると小さく頷く。 　聞きたい事は佑樹の方にも沢山あった。 　日向の手首には縛られたような痕があり、首にも体にも鬱血痕が沢山ある。さらに痛々しい噛み痕や、足首に付けられたままになっている拘束具はなんなのか？　今すぐにでも教えて欲しい。 『無理やり暴力を受けた可能性が高い』 　そう言った兄は、首にある痣は絞められた痕だと思うと佑樹に告げた。 ――なにが起こってる？　なんであんな……。 　本来なら、恋人である浩也へ連絡を入れた方が良いのかもしれないが、今の状態でそれは出来ない。 　日向を傷つけた可能性が少しでもある人間を、今は近づけてはいけない。そう考えながら、佑樹は目の奥がツンとするのを我慢して、台所へと移動してからレトルトの粥を温めはじめた。 　＊＊＊ 「ご馳走様でした」 　せっかく佑樹が用意してくれた粥だけど、ほんの少ししか食べられなくて、申し訳なさに日向は眉尻を下げた。 「少しでも食べられて良かったよ。良くなるまで居てあげるからゆっくり休んで」 　向けられた佑樹の笑顔は少しだけ寂しそうに見え、日向は何も言えないままベッドへと体を預ける。 　粥を食べながらこれまでの経緯を聞いた日向は、帰って来てから二日近くも経っていたことに驚いた。 　梓には、大丈夫だと伝えてくれたと言っていたから安心したけれど、佑樹が来てくれなかったらどうなっていたかと思うと、申し訳なさで一杯になる。 　それと同時にパジャマもシーツも寝ている間に替えられている事に気づき、日向は激しく動揺した。 ――見られた？ 　体には誤魔化しようのない無数の痕が刻まれており、しかも足首には未(いま)だに革の感触があるから、体を見られていないとしても、きっとおかしいと思われているだろう。