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――どうしよう……なんて言えば。  佑樹に心配をかけたくないし、何より友人を失いたくない。そんな気持ちがわき出して来て日向は必死に考えを巡らせた。    なんとか誤魔化したいけれど、その為の嘘は浮かんでこないし佑樹に嘘を吐きたくない。  顔もまともに見ることが出来ず瞳を閉じて考えていた日向だが、突然額にヒヤリと冷たい手のひらが触れたから、過剰なくらい大きく体を震わせた。 「……ごめんなさい」  彼は日向の熱を確かめようとしただけ。それは分かった。  だけど恐怖を感じた体の方は、気持ちを無視してガタガタと震えだしてしまう。  佑樹が息を飲む気配がした。 「ごめん、なんだか寒くて」  白々しい言い訳なのは分かっているが、それしか思い浮かばない。せめて体の震えだけでも止めようと日向は唇を噛み締めるけれど、それにも失敗してしまい、泣きたい気持ちで一杯になった。 「日向……辛かった?」  暫しの沈黙が続いた後、先に口を開いたのは佑樹の方で、悲し気に、寂し気に響く声に違和感を覚えた日向は瞼を開き……そして言葉を失った。  目線の先、静かに涙を流す佑樹の姿があったから。 「佑樹……くん?」  ようやく絞り出した声を、繋ぐ言葉も浮かばないくらい日向は激しく動揺した。  だけど目の前で、自分の為に流される涙をどうにか止めたいと思った日向は、懸命に言葉を紡ぐ。 「心配させちゃってごめん、大丈夫だから」  必死に口角を上げようとするけれど、それは見事に失敗する。 『辛かった?』  佑樹の言葉が頭の中で繰り返されたその途端、堰を切ったように眦から涙が次々溢れ出し、それは静かに頬を伝った。 「辛いなら無理して笑わなくていい。なにがあったか分からないけど、なにがあっても俺は日向の味方だから」  佑樹の言葉に日向はとうとう嗚咽を漏らす。 「あり……がと」 ――僕の為に、泣いてくれて。  彼に全てを話せるかは分からない。  けれど、そう言って貰えただけで心が少し軽くなったような気がした。

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