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日向が居なくなって初めてわきあがった焦燥感は、自分でも信じられない程に大きく、本当はすぐにでも日向を追い掛けて捕まえたいという衝動に駆られたけれど、心の迷いはそう簡単に断ち切ることができなかった。
『僕なんかが言える立場じゃないけど、ちゃんと自分に向き合った方がいい』
帰り際、斗和が放った言葉が胸へと突き刺さる。
答えなら、もう出かけていた。
けれど、それに向き合うには自分の弱さを認めなければならない。
ずっと欲してきた。
助けて欲しいと思っていた。
だけど、与えられる物はどれも自分を満足させてはくれなくて。
結局、父親だけを見ていた母親と斗和を一番に考える父親。それに、なにも知らない癖に見た目や家柄だけで近づいて来ては、勝手に失望して離れていく人々の中で、自分を受け止め分かってくれる存在を、心の奥ではずっと探し求めていた。
『愛してほしい』
心の声を口に出さなければ、誰にも伝わらないことなんて分かっている。
だけど、それを伝えて拒絶されるのが本当は怖かった。
分かっていると言っている自分が、本当は一番分かって無かったのだ。
だから、信じようともしないで日向を傷つけた。
――俺は、いつも欲しがってばかりだ。
そう思い至った浩也は、自然に浮かんだ一つの答えに瞳を見開く。
今まで、考えないようにしていた本音が心に降りてきて、ストンとそこに収まった気がした。
約束に救いを求めた時点で、純粋な気持ちはすでに無くなってしまっていたのだ。
――ヒナに会わなければならない。会って、伝えなくちゃいけない。
利用するだけ利用して、今更だと心から思う。拘束をも抜け出して、逃げてしまった彼にはもう遅すぎる言葉なのかもしれないけれど――。
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