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「どうぞ」
ドアを開いた佑樹が小さく声を掛けてくる。
初めて足を踏み入れた部屋は、必要な物以外は何も置かれておらず、彼らしく整頓された空間だった。
どこか和むような雰囲気なのは、机の上に飾られた小さなテディベアと天球儀のせいかもしれない。
静かにベッドへ歩み寄り、眠っている日向の顔を覗き込んで、そのやつれた姿に眉根を寄せた。
「良く寝てる」
髪の毛にそっと触れながら、浩也は呟く。
「薬が効いてるから」
聞こえてきた声に頷きで答ると、優しい手つきで頭を撫でた。
――また、泣いたのか?
頬に残る涙の跡に、浩也は胸が絞られるような感覚に陥る……と、その時。
「う、うぅ……ん」
むずがゆそうに日向が寝返りをうったため、掛かっていた布団がずれた。
「これは、なんだ?」
露 になった首にはっきりと残る痣に気づき、浩也は思わず指で触れる。
――俺が、付けた痕じゃない。
「俺の兄が医者で、こんな状態だから呼んで診て貰ったんだけど、絞められた痕じゃないかって言ってた」
「こんな……」
――なにがあった?
驚愕に指が僅かに震え、それ以上の言葉を発する事が浩也には出来なくなった。
「北井じゃないみたいで……良かった」
疑ったのが申し訳ないと思えるくらい、心配そうな表情をして日向を見つめる浩也の姿に、佑樹は内心反省しながら遠慮がちに声をかけた。
日向が辛い事に変わりは無いけれど、浩也がやったわけでは無と思った佑樹は安堵にホッと息をつく。
「買い物、行って来るから」
返事も出来ずにいる浩也へとそれだけを告げ、佑樹は静かに部屋を出た。
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