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 *** 「どうぞ」  ドアを開いた佑樹が小さく声を掛けてくる。  初めて足を踏み入れた部屋は、必要な物以外は何も置かれておらず、彼らしく整頓された空間だった。  どこか和むような雰囲気なのは、机の上に飾られた小さなテディベアと天球儀のせいかもしれない。  静かにベッドへ歩み寄り、眠っている日向の顔を覗き込んで、そのやつれた姿に眉根を寄せた。 「良く寝てる」  髪の毛にそっと触れながら、浩也は呟く。 「薬が効いてるから」  聞こえてきた声に頷きで答ると、優しい手つきで頭を撫でた。 ――また、泣いたのか?  頬に残る涙の跡に、浩也は胸が絞られるような感覚に陥る……と、その時。 「う、うぅ……ん」  むずがゆそうに日向が寝返りをうったため、掛かっていた布団がずれた。 「これは、なんだ?」  (あらわ)になった首にはっきりと残る痣に気づき、浩也は思わず指で触れる。 ――俺が、付けた痕じゃない。 「俺の兄が医者で、こんな状態だから呼んで診て貰ったんだけど、絞められた痕じゃないかって言ってた」 「こんな……」 ――なにがあった?  驚愕に指が僅かに震え、それ以上の言葉を発する事が浩也には出来なくなった。 「北井じゃないみたいで……良かった」  疑ったのが申し訳ないと思えるくらい、心配そうな表情をして日向を見つめる浩也の姿に、佑樹は内心反省しながら遠慮がちに声をかけた。  日向が辛い事に変わりは無いけれど、浩也がやったわけでは無と思った佑樹は安堵にホッと息をつく。 「買い物、行って来るから」  返事も出来ずにいる浩也へとそれだけを告げ、佑樹は静かに部屋を出た。

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