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ドアの閉まる音で我へと返り、浩也は呼吸を整えてから部屋の中へと視線を移した。
きっと佑樹は動揺した自分を気遣って席を外したのだろうが、そう考えると罪悪感が心の中に芽生えてしまう。
首の痣には覚えが無いけれど、日向の体に刻まれた痕のほとんどは、自分が付けたものに間違いない。だから本当は、佑樹に気を遣って貰う資格が無いのだ。
眠っている日向を今すぐ叩き起こして、何があったかを問い詰めたいという衝動に駆られながらも、そんな気持を紛らわせようと息を深く吸い込んで、日向の痣から気を逸らすように部屋の中へと視線を移す。
すると、ふと目にした本棚の中に懐かしい星の図鑑を見つけ、思わずそれに手を伸ばした。
「これは……」
それは、小学生の頃の自分が一番大切にしていた図鑑と同じもので、入院中のアカリにも良く見せていた事を思い出す。
星への興味は成長につれ薄れていってしまったけれど、同じ本は今でも実家の本棚にしまつてあった。
「星が、好きなのか?」
確認のように呟きながら浩也は考える。
――俺はヒナのことを、何も知らない。好きな本も、好きな食べ物も、好きな色も、好きな景色も……なんにも。
懐かしい図鑑を手に取りペラペラと捲って見ると、少しだけ気持ちが落ち着いてきた。元あった場所へそれを戻し、浩也は何気なく机の上、テディベアの横に伏せてある写真たてに目を留めた。
「ん?」
ただ倒れてしまっていると思った浩也は、直しておこうとそれを手に取る。
「これは……」
そんな浩也の瞳に飛び込んだのは、木製フレームに縁取らている二枚の写真。
その一枚を凝視した浩也は驚きに目を見開いて……しばし言葉を失った。
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