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「北井でも誰かに相談するんだな。ってか、俺の質問に答えてないし」
「相談したのは随分と久しぶりかもしれない。織間が心配なのも分かるが、今は俺を信じて欲しい」
そう口にする浩也の顔は、無表情ではあるものの、ほんの少しだけ穏やかな色をして見える。
学校でいつも見せているような作り笑いより、よほど人間らしいと思えるその表情に、質問には直接の返答を貰えなかったが、彼の言葉に嘘は無いのではなかろうかと佑樹は思った。
「分かった、信じるよ。連れて帰るなら寝てる内に移動しちゃった方がいい。今の日向は触られるのがかなり怖いみたいだから」
告げると浩也は目を細める。
「そうか……じゃあ急ごう」
取り出したスマートフォンでタクシーを呼ぶ浩也を見ながら、佑樹は考える。
――北井の言ってた隠してる事ってなんだろう? それに……なにも知らない日向は、目が覚めた時、場所が変わってても大丈夫だろうか?
やはり自分も浩也の家へ一緒に行こうと思ったが、彼を信じると言った以上、それを声にすることが佑樹にはできなかった。
***
シーツを巻きつけた日向の体を横抱きにして運んだ浩也は、たどり着いた自宅玄関の扉を開けて中へと入る。
日向は軽いがそれでも多分50キロ程度はあるだろう。その上、佑樹に渡された袋の中にはペットボトルが沢山入っていたものだから、かなりの重労働によって久々に息があがってしまった。
今まで誰も入れたことのない自身の寝室へ日向を運び、キングサイズのベッドにそっと横たえてから、薄い布団を体に掛けると、飾ってあった写真たてを手にリビングへ戻る。
立ったまま、少しの間写真を見つめた浩也だが、寝室から微かに聞こえた呻き声に反応し、スポーツドリンクとタオルを手に取りに日向のいる部屋へと戻った。
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