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「体が大丈夫そうなら風呂に入るか?」  尋ねる声はいつものように抑揚の無い物だったけれど、慣れたのか? 怖いとはあまり思わなかった。  汗をかいた体はベタベタとしており、不快感を覚えていたから、日向は浩也の申し出に「ありがとうございます」と、礼を言う。 「準備してあるから、湯中(ゆあた)りしない程度に入ってこい」 「は…はい」  その言葉に頷きながら答えた日向が顔を上げると、浩也がこちらを見つめていて……少しの間見つめ合うような形になってしまったから、思わず視線を(そら)してしまった日向だが、無表情に見える彼からは何の感情も読み取る事が出来なかった。  *** 「ふぅ……」  体を洗って湯船に浸かると、日向は一つ息をついた。  バスタブへと湯を張ってくれていた事には少し驚いたけれど、久々に浸かってみると思いの外気持ちが良い。  いろいろな事が起こりすぎて、すべてが悪い夢だったのだと思いたくなった日向だが、見下ろす体のあちらこちらに残されている鬱血痕が、全ての出来事は現実なのだと主張していた。  体を洗う時には意識してなるべく見ないようにしたけれど、いったん視界に入ってしまえば目を逸らすことが出来なくなる。 「……汚い」  痕の一つを爪で引っ掻くと、少しだけ綺麗になったような気がした。 ――そうか、こうすれば落ちるんだ。  そんな錯覚へと陥った日向は、取り()かれたかのように体を引っ掻きはじめる。

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