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 静かなバスルームの中に、日向が起こす水音だけが響いている。 ――苦しいっ……息が……。  もう自分では体を動かすこともできなくなり、日向の手足がピクッピクッっと痙攣したかのように跳ねた。 ――死んじゃう……助けて!!  開ききったその瞳からは涙が溢れ、限界を超えた苦しみの中、揺れる水面(みなも)の向こうに見える浩也へと、助けを求めるように腕を伸ばしたのは無意識のうちの行動で――。  次の瞬間、その手を掴まれ強い力で引き上げられたが、日向の頭は真っ白に染まり意識は朦朧としてしまっている。 「ゲフッ…ゲホッ――――!」  激しく咳き込みながら懸命に酸素を取り込む日向だが、息を()く間もなくバスタブから引き摺り出されて声にならない悲鳴を上げた。 「長湯して、湯中(ゆあた)りしたら大変だ」 「ゲホッ…ゴホッ……やぁっ」  背後から日向の体を抱きしめ、優しげな声で囁いてくる浩也の声からは感情が読み取れない。だが、本能的な恐怖を感じ、日向は腕から逃れようとしてノロノロと体を動かした。 「うぅっ」 「動くな……命令だ」  途端、強くなった彼の拘束と、鼓膜を揺らした低い声音に日向の体がビクリと震える。 「ひっ…あっ……やぁ!!」  そのまま肩へと歯を立てられ、痛みに体を捩るけれども、そんな反応など意に介さずに浩也はギリギリと咬んでくる。 「っ! ……いたっ…やぁ!」  こえきれずに悲鳴をあげ、新しい涙を流しはじめた日向には、今、自身に何が起こっているのかなど、考えている余裕は無かった。

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