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『淫乱』  刹那、頭の中で響いた声に日向は瞳を見開いた。 「ちがっ! ……違う!! 僕は……」  バスタブの中に沈められたり肩へと噛みつかれたり……酷い扱いを受けているのに、少しの愛撫で感じてしまう自分が信じられなくて、日向は錯乱したかのように激しく暴れだす。  何がなんだか分からなくなって壊れたように「違う」と繰り返す日向の耳へと、焦れたような舌打ちが聞こえた次の瞬間――。 「……ひっ!」  自分の体がふわりと浮いた感覚に、驚いた日向は動きを止めた。 「あっ……」  抱き上げられたと気づいた日向は我に返って声を上げるが、そんな反応に構うこと無く浩也は日向を横抱きにしてバスルームを後にする。そして脱衣場に設置されている椅子に日向をそっと下ろし、バスタオルを使って体を()き始めた。 「あのっ、自分で……」 「黙ってろ」  自分で拭けると伝える声は、途中までしか紡がせては貰えない。丁寧な手つきに戸惑った末に日向は視線を彷徨わせ、視界に入った足首の痣をただぼんやりと見つめていた。  そうしている内、今度は体をバスローブに包まれて、柔らかなタオル生地の感触に体の力が少しだけ抜ける。 「……どうして?」  自然に口から零れた言葉。  それが、何に対する問いかけなのか、自分自身にも分からなかった。  だから、その問いに対する返事がある訳も無くて……黙ったままの浩也に再び抱き上げられてそのまま寝室へ運ばれる。 ――なにを、考えているの?  抵抗を諦めた日向は、その腕の中でぼんやりと考えた。  少しずつ頭の中はクリアになってきていたが、今の状況は理解できないし、何から考えたら良いのかも分からない。  だけど、自分が降ろされたベッドへと、濡れてしまった衣服を脱ぎ去った浩也が乗り上げて来た刹那、日向は一つだけ理解した。  きっと間違い無く、彼は自分を抱くつもりなのだ……と。

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