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――こんな汚い体、触るのも嫌だったに決まってる。これ以上、僕のワガママで彼を(わずら)わせちゃいけない。  流されるままに日向がここまで来てしまったのは、浩也が好きだという気持ちを断ち切ることが出来なかったからだ。  だけど、これ以上は彼を困らせるだけなのだと悟った日向は、痛む体を懸命に起こして返事をしようと口を開く。けれど、その一言を声にすることがどうしても出来なくて。 ――早く……ちゃんと、言わないと。  極度の緊張に自身の体から血の気が引いていくのが分かる。『止める』と言えばいいだけなのに、言いたくないと心が悲鳴をあげていた。 ――浩也くんの……ために。  そう自分自身へと言い聞かせながら声を出そうとするけれど、乾ききったその唇を開きかけたその瞬間、突然浩也に抱き締められて日向は思わず声を上げた。 「ひっ!」 「泣くな」 「……え?」  包みこむように抱き込まれ、日向は自分が涙を流してしまったことにようやく気づく。 ――泣いたら、また困らせる。  焦った日向は唇を噛んで堪えようとするけれど、次から次へと溢れる涙を留めることは出来なかった。 「ご……ごめんなさい。今、ちゃんと言うから。だから、もうこれ以上……優しくしないで」  嗚咽しながらどうにかそれだけを日向が告げると、背中へ回された浩也の腕にグッと力が込められる。 「うぅっ」 「ごめん、俺が狡かった」 「……え?」  頭上から降った言葉の意味が、日向には理解できなかった。 「また間違えるところだった。試すような事を言ってごめん。先に伝えなきゃならないのは俺の方だ」 「な……」 ――試す? なにを? 「もう遅いかもしれないけど、言わせて欲しい」  混乱している日向の沈黙を了承と受け止めたのだろう。続けて浩也は日向にとって信じられない言葉を紡ぐ。 「俺は……ヒナが好きだ」  刹那……日向の体が小さく震えた。

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