132 / 213
25
――こんな汚い体、触るのも嫌だったに決まってる。これ以上、僕のワガママで彼を煩 わせちゃいけない。
流されるままに日向がここまで来てしまったのは、浩也が好きだという気持ちを断ち切ることが出来なかったからだ。
だけど、これ以上は彼を困らせるだけなのだと悟った日向は、痛む体を懸命に起こして返事をしようと口を開く。けれど、その一言を声にすることがどうしても出来なくて。
――早く……ちゃんと、言わないと。
極度の緊張に自身の体から血の気が引いていくのが分かる。『止める』と言えばいいだけなのに、言いたくないと心が悲鳴をあげていた。
――浩也くんの……ために。
そう自分自身へと言い聞かせながら声を出そうとするけれど、乾ききったその唇を開きかけたその瞬間、突然浩也に抱き締められて日向は思わず声を上げた。
「ひっ!」
「泣くな」
「……え?」
包みこむように抱き込まれ、日向は自分が涙を流してしまったことにようやく気づく。
――泣いたら、また困らせる。
焦った日向は唇を噛んで堪えようとするけれど、次から次へと溢れる涙を留めることは出来なかった。
「ご……ごめんなさい。今、ちゃんと言うから。だから、もうこれ以上……優しくしないで」
嗚咽しながらどうにかそれだけを日向が告げると、背中へ回された浩也の腕にグッと力が込められる。
「うぅっ」
「ごめん、俺が狡かった」
「……え?」
頭上から降った言葉の意味が、日向には理解できなかった。
「また間違えるところだった。試すような事を言ってごめん。先に伝えなきゃならないのは俺の方だ」
「な……」
――試す? なにを?
「もう遅いかもしれないけど、言わせて欲しい」
混乱している日向の沈黙を了承と受け止めたのだろう。続けて浩也は日向にとって信じられない言葉を紡ぐ。
「俺は……ヒナが好きだ」
刹那……日向の体が小さく震えた。
ともだちにシェアしよう!