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少しの間、二人の間に時間が止まったかのような沈黙が流れた。
――なんで……どうしてそんな事、言うの?
思いもよらない浩也の告白に、驚いた日向の体は無意識に強ばってしまう。
嘘だと思う。
そんな筈は無いと思う。
だけど、そうと頭では分かっていても、告げられた好きという言葉に、日向の心臓はドクンドクンと大きく音を立て始めた。
付き合うならば女性だと、以前浩也は言っていた。
セフレだって他にもいる。
それに、二人のこれまでを振り返っても、自分を好きだなんて言葉が信じられる筈もなく。
――どうして、そんな……嘘をつくの?
ごちゃごちゃになった頭の中で懸命に思考を巡らせたけれど、喉元まで出かけた言葉が空気を揺らす事は無い。
怖かった。
今嘘だなんて言われたら、日向は耐えられそうにない。
「今更こんなことを言っても、ヒナを困らせるだけだって分かってる。だけど、どうしても伝えたかった」
真摯な言葉に日向の心が揺さぶられる。
静かな声音はいつになく、優しげに、切なげに部屋へと響いた。
「好きだ」
もう一度、今度は耳許で囁かれ、戸惑いながらも日向がその手を浩也の背中に回したのは……背中へと触れる彼の手のひらが、僅かに震えていることに気が付いたから。
そして、彼の鼓動の高鳴りが日向にも伝わったから。
――嘘じゃない? 信じても……いいの?
少しだけ、背中へ回した指先に力を込めてみると、自分を抱く浩也の腕にも僅かながらに力が籠る。
彼から拒絶されなかったことに、日向の心は打ち震えた。
――僕も、僕もあなたが……。
思わず言葉を紡ぎかけた唇は、だけど次の瞬間凍りつく。
『突っ込んでくれれば、誰でもいいんだろ?』
『淫乱』
突如、脳裏に浮かんだ映像に、日向は瞳を見開いた。
――僕は……なにを。
突然の告白によって混乱してしまったとはいえ、あの出来事を一瞬でも忘れていた自分が信じられない。
――そうだ、僕には好きになって貰う資格なんて……ない。
淫らで、貪欲で、浅ましい……そんな自分を思い出せば、日向はもう浩也の腕に包まれてなどいられなかった。
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