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「離してください」
突然、腕の中から逃れようとして動きはじめた日向に浩也は焦ったが、躊躇 いながらも解放した。
少しだけ距離を置き、向かい合わせに座った浩也は、俯いたまま動かずにいる日向を見つめて考える。
――やっぱり……もう遅かったか。
彼の手のひらが自身の背中へ触れた時から僅かな希望を抱いていたのだが、それは脆くも崩れ去りそうになっていた。 そして――。
「ごめんなさい。もう……止め…ます」
次の瞬間、俯いたままの日向が発した終わりを決定づける言葉が、浩也の胸へと突き刺さる。
覚悟はしていた。
だけど、それでも好きな相手からの拒絶はかなり辛いもので、浩也の心は初めて感じる痛みに潰されそうになる。
――それだけの事を俺はしてきた。だけど……。
「……分かった。困らせてごめん。だけど、迷惑はかけないから、これからも好きでいることだけは許して欲しい」
できるだけ怖がらせないように穏やかな声音で浩也が告げると、弾かれたように顔を上げた日向と正面から視線が絡んだ。
その瞳はひどく頼りなさげに揺れていて――。
「それも……ダメか?」
悲しげに揺れる日向の瞳に、好きでいる事すら許されないと思った浩也が放った言葉は、緊張から掠れたものになってしまう。
しかし、返ってきたのは浩也が思い描いた物とはまったく違う答えだった。
「駄目だよ、僕にはそんな資格……無い。僕は、汚い。だから、もう優しくしないで」
日向の頬を次から次へと伝い落ちる涙を見て、自分の言葉が足りなかったと浩也は思い知らされた。
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