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 一方、自分の気持ちを抑えるために、神経をすり減らしながも告げた『止める』という言葉によって、日向の心は限界を迎えていた。  自分の心に嘘を吐く事への罪悪感や嫌悪感に、吐き気を催すほどの眩暈を覚えており、俯いたまま浩也の顔を見る事もできずにいる。  これで全てが終わる筈だった。  それなのに――。 「……これからも、好きでいることだけは許して欲しい」  浩也が発した言葉に驚き思わず顔を上げた日向は、その表情を見て固まった。 ――なんで、そんな顔をするの?  悲しげに歪むその表情に日向の心が悲鳴を上げる。  5年前、病室で一人泣いていた時、浩也が見つけてくれたから、淋しい時間を一緒に過ごしてくれたから、だから、あの時自分は前を向けた。 『ずっと一緒に……』  彼との約束を思い出すたびに胸が高鳴りを覚えていたが、その想いが恋だったのだと確信したのは、高校生になった浩也を目で追い始めてからだった。  彼の笑顔を見たい。  その一心で、セックスフレンドという道を選んでしまった日向だけれど、結局浩也の本当の笑顔を見ることはできず、今だって、自分のせいで彼の表情は歪んでいる。 「それも……駄目か?」  さらに浩也の問いが鼓膜を揺らし、悲しげな顔を見た途端、とうに限界を超えていた日向の中で何かがプツリと切れた。 ――違う。僕は、そんな風に思って貰えるような人間じゃない。知らないから、貴方は知らないから……だから、そんな事が言えるんだ。  あふれる感情が抑えられない。  気づけば日向の唇からは言葉が零れ、頬には涙が伝っていた。  ***  (すす)り泣きが空気を揺らす。  声をかけるタイミングを掴めないまま、浩也はとりあえずシーツに落ちていたバスローブを、極力肌には触れないように日向の肩へと掛けた。  その体がビクリと跳ねる。 ――かなりのストレスが、心にかかっているのだろう。  自分の言葉が足りなかったという事は分かっている。

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