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 だけど、それを日向へと伝える事で、さらに追いつめてしまうんじゃないかという思いが、浩也を臆病にさせていた。  なにも言わずに終わりにすれば、日向はこれ以上傷つかないかもしれないとも思ったが、自らを責める彼の言葉を思い返して唇を噛み締める。 ――違う、このまま離れたら……ヒナは、きっと自分を責め続ける……ならば。 「ヒナは汚くなんかない」  決意を込めて口を開く。  これから話す内容は、日向をさらに苦しめる事になりかねないけれど、言わないでいても苦しむのなら、僅かでも彼を癒す可能性がある方に()けようと思った。 「セイの部屋で、何があったのか……知ってる」  その言葉に、嗚咽をもらす日向の体が震えはじめる。 「俺が……自分の気持ちに気づかないふりをしてたせいだ。ヒナが自分を責める必要なんてない。悪いのは全部俺だ。ヒナは綺麗だ。汚れてなんかない」  できる限り実直に本音を伝えようとするけれど、気持ちばかりが先走り、空回りして上手く言葉が出てこない。  もどかしく思っていると、日向がおもむろに首を横へと振り始めた。 「綺麗なんかじゃない。僕は、いんらっ……だから……」  泣きながらポツリポツリと訴えかけてくる声に、浩也の胸は締め付けられるような傷みを覚える。 「薬のせいだ。それに、何も知らなかったヒナの体に、快楽を教え込んだのは俺だ。ヒナは悪くない、俺を恨んでいいから……だから、自分を責めるな」  すぐに忘れるなんて出来るような事じゃない。  だけど、自責の矛先を自分へと向ける事ができれば、少しは楽になるんじゃないかと浩也は思った。

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