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――なん……で?
浩也が涙を流す理由は分からない。だけど、それが自分の為に流された涙だということは、痛いくらいに伝わってきた。
それと共に今まで聞こうとしなかった彼の発言が、日向の心に入り込んでくる。
『辛かったよな、助けてやれなくて……本当にごめん』
『セイにヒナを貸すなんて言ってない』
『俺の側に……』
同情なのかもしれない。
自分にその資格は無いとも思う。
だけど、浩也の涙を目 の当たりにして日向は心を決めた。
現実から目を背けるのではなく、全ての事柄と向き合って、そしてきちんと自分なりの答えを導きたすことを。
***
映像を観たと伝えたことで、日向をさらに追い詰めてしまう結果となった。
本当は、その先に伝えたい言葉があったのに、表情が消えてしまった日向になにを話しても反応は無い。
だけど、ここで諦めてはいけないと思い、なんとか話を聞いて欲しいと必死に語りかけるうち、言葉に詰まってしまった浩也は自分の様子がいつもとは違うことに気づく。
――これは……。
頬を伝う濡れた感触に、浩也は自分が涙を流していることを悟った。
――泣いたのは、何時 ぶりだろう。
記憶に無いから、かなり久しぶりだという事は分かる。
――だけど、そんなことより今は……。
「ヒナ、俺は……」
「泣かないで」
絞り出すように発した言葉は日向の声に遮られ、最後までは紡げなかった。
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