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 それは、他人が聞けば今の状況とは何の脈絡もない話に聞こえるだろう。  驚きに固まってしまった日向の頭を軽く撫で、浩也はそのまま話を続ける。 「多分、俺の初恋だったんだと思う」 「………!」  初恋という彼からの言葉に、日向は自分の鼓動が速くなったのを自覚した。  だけど、なぜ今浩也がそんな事を言いだしたのかが分からないから、黙って続きを待つしかできない。 「ヒナが……アカリなんだろう?」  確認するように囁かれ、日向は思わず顔を上げた。 「……ど…して?」 ――いつから……知ってたの?  浩也は覚えていないのだと思っていた。  もし覚えていても、自分だとは気づかないだろうとも。 「俺には言わないつもりでいた?」  そう問いかけてくる浩也の唇は薄く微笑みを浮かべていて、そこに日向を責めるような色はない。 「違っ、僕、言えなくて。忘れてるって、迷惑だって……思ったから。それにあれは、僕じゃなかったから」  しどろもどろになんとか言葉を返しながらも、日向の頭の中に巡るのは疑問ばかりで。  覚えているというならば、浩也の中のアカリは女の子のはずだ。  今の日向はあの時のように髪を長く伸ばしていないし、身長だって20センチ以上伸びている。 ――分かるはずが……ない。 「どうして……分かったの?」  問いかけながら、日向が眉尻を下げて浩也を見つめると、それを受けた彼の笑みが自嘲(じちょう)を含んだものに変わった。 「正直、全然気づかなかった。ちょっとだけ似てるって、そう思ったことはあったけど、ヒナの部屋で写真を見るまでは分からなかった」 「あ……」  その言葉に、そういえば彼は自分の部屋を訪れたのだと思い至り、日向は小さな声を上げる。机の上に伏せてあった写真を見て、それで彼は知ったのだろう。 「どうして女の子の格好をしてたのかとか、病院からいなくなってから何をしていたのかとか……聞きたい事は沢山あるけど、今言いたいのはそんな事じゃなくて」  そう続けた浩也の表情が急に切なげに歪んだから、日向の体を強ばらせる。

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