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それに。
――彼は苦しんでる。
今までの浩也の行動や聞いた話の端々から、彼の闇は深いようだと日向は感じる。
その正体がなんなのかを知りたいと思うけれど、それよりも今は目の前にいる浩也の瞳から流れる涙を止めたいという気持ちが大きくて。
気づけば言葉にするより早く体が勝手に動いていた。
浩也の肩に手のひらを置いて膝立ちになり、日向は頬へと舌を這わせる。
「……ヒナ?」
動揺している浩也の声は耳に入っているけれど、日向は構わず行為を続けた。
頬から目許へと涙を拭うように舌を這わせてから、いったん顔を離して浩也の顔を見つめる。
「泣かないで。僕も、どうしたらいいのか分からないけど、北井くんの心が痛くないようにしてあげたいって思うから」
やっぱり上手く言葉にできずもどかしい気持ちに包まれながら、日向はもう一度浩也の頬へ唇を寄せた。
この気持ちが少しでも伝わればいい。そんな想いを込めて。
そして、唇が触れようとしたその瞬間。
「……!」
突然顔を動かした浩也の唇が、日向のそれに優しく触れる。
それは軽く触れるだけのキスだったけれど、それだけですべてが伝わるような、そんな優しさを含んでいて。
「ごめん、我慢できなかった。嫌だった?」
驚きに目を見張った日向の顎へと指を添えながら、浩也が少し不安げな表情で尋ねてくる。
「ちがっ……びっくりして、嫌なんかじゃ……だって、今まで一度も」
みるみるうちに日向の頬は紅 く染まり、それを見た浩也の表情が綻 んだ。
「本当は何度もしたいって思った。だけどできなかった。ヒナに本気になりかけてる自分を認めるのが怖かった。だけど、今は……」
そこで言葉を切った浩也は自らも動いて膝立ちになり、日向の顔を上向かせると、そのまま顔を近づけてきた。
「いいか?」
互いの唇が触れあう直前、改めて浩也に問われた日向が小さく頷き返事をすると、はにかむように微笑 むものだから心が愛しさで一杯になる。
そして、唇が重なった刹那、日向の体はその歓びを示すかのようにピクリと跳ねた。
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