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「そろそろ寝たほうがいいな」
数分の間日向を腕に抱きしめていた浩也だが、意を決して口を開いた。
本当は、日向をずっと腕の中へと閉じ込めておきたいが、このままでは理性を保っていられる自信がまったく無い。
受けた暴行の傷はまだ癒えていないから、安心できる環境を与えたいと浩也は思っていた。
――セイもこのままにしておけないな。データを処分させて、もう二度と日向の前に顔を出さないように釘を刺さないと。
頭の良い男だからデータは消された可能性が高いけれど、現実は消せはしないのだと思い知らせてやらなければ気が済まない。
「どうしたの?」
日向を抱き上げ移動しながらそう考えをまとめた浩也が、ベッドの上へと華奢な体を横たえれば、夜目が利くようになったのだろう、固い表情を見た日向が心配そうに尋ねてくる。
「なんでもない」
そう言って笑みを浮かべれば、安堵したように日向がホッと息をついた。
「あのっ……今日も一緒に寝てくれますか?」
「ああ」
尋ねる声に答えながら、優しい手つきで頭を撫でると日向がその手を両手で掴む。
「ん?」
「……抱いて欲しいって言ったら、北井くんは僕を抱いてくれますか?」
突然の質問に、驚いた浩也は目を見開いた。
緊張のせいだろう。腕を掴んでいる日向の指が細かく震えているのを感じた。
「ヒナ、俺に気を使わなくていいから」
「気を使ってなんかない。もう大丈夫だから、もし嫌じゃなかったら、ちゃんと北井くんと繋がりたい」
その真剣な声音から……日向の本気が伝わってきて、浩也の心は激しく揺れる。だけど。
「ヒナ、お前の体はかなり弱ってる。時間はこれから沢山あるから。だから……焦るな」
日向に……というよりは、半分以上自分を抑える為に放った言葉に対し、腕を掴んでいる指先へと僅かに力が込められた。
「わがまま言って……ごめんなさい」
小さく紡がれた謝罪の言葉は少し掠れてしまっていて、また日向を泣かせてしまった事に浩也は気がついた。
今まで一度も自分の方から求めた事など無かった彼が、必死に伝えてきたのだから気づかなければならなかったのだ。日向の抱えている不安に。
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