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事の始まりは二時間ほど前。
『実は昨日、文苑女子の娘に告白されてさぁ……可愛かったし性格も良さそうだったから、付き合ってみようと思って』
『え?』
いつものように遊びに行った亮の部屋で、突然そんな報告を受けたものだから、いつかはこんな日が来る事を覚悟していた佑樹だけど、それでも一瞬、心臓を鷲掴みされたような感覚に陥った。
『だから、彼女が出来るかもしんないって言ってんの』
人の気も知らないで、嬉しそうにはにかむ亮がうらめしい。
『そう、よかったじゃん』
『そうって……冷たいなー。もっと喜んでくれてもいいのに』
動揺を悟られないように、できるだけ素っ気なく答えたけれど、それが気に入らなかったのか? 亮は佑樹からゲームのコントローラーを奪い取る。
『なに? 俺のが先に彼女できそうだからって拗ねてんの?』
『違うよ!』
『ムキになってんじゃん。かーわいー』
からかうように頭をグシャグシャと撫でられながら、佑樹は泣きたい気持ちになった。
親友というポジションで満足しなければならないとずっと思ってきたけれど、亮が誰かと付き合う事などこれまで一度も無かったから、今、初めて向き合ってみて、自分の気持ちが思っていたよりずっと大きな物だった事を改めて思い知らされる。
今は自分に触れている指が女の子を触ったり、この笑顔をその娘に向けたりする事に、とても耐えられそうに無かった。
それでも。
――友達で、いい。
『まだ決まったわけでもないのに、浮かれてる亮がムカつくんだよ』
必死に表情を取り繕い、ふざけたように言おうとするけど、それは見事に失敗して顔がヒクリと強張ってしまう。
『そういえば、今日用事があったんだ。俺、帰るから』
――帰って頭を冷やそう。そうすれば大丈夫になるはず。
そう思って立ち上がると亮が手首を掴んできた。
『なんで怒ってんの?』
『怒ってないよ』
『怒ってる。何年一緒にいると思ってんだよ。佑樹の事ならなんでも分かる。もしかして……俺に彼女ができたら遊べなくて寂しいとか?』
『なっ』
『心配しなくても、佑樹と遊ぶ時間もちゃんと作るよ。だから……』
『っ……』
不安定になってしまった佑樹の心は、亮の発したあまりにも的外れな言葉に、ついに決壊してしまう。
『なんにもっ……分かってないくせに!』
気づけば佑樹は叫んでいた。
冷静に考えれば、ずっとひた隠しにしていた思いに、ノンケの亮が気づく筈がない事くらい分かっていたのに、その時の佑樹には、長い年月抱え込んでいた彼への思いを、抑えることが出来なくなってしまっていた。
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