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 *** 「おはよう、亮くん……あれ? 佑樹くんは?」 「おはよ。風邪引いたって」  学校へと向かう途中、掛けられた声に極力普通に笑顔を返せば、隣を歩き始めた友人、矢田部日向(やたべひなた)が少しだけ首を(かたむ)ける。  家が隣同士だから、亮と佑樹は二人で学校へ通っているが、通学路が途中から日向と同じになる為、こうして偶然タイミングが合えばそこから一緒に登校していた。  自分達が通っている私立白鷺学園は、小学校から大学までの一貫教育を行う、いわゆるエスカレーター式の男子校で、佑樹と亮は初等部から入学したいわゆる持ち上がり組、隣を歩く華奢な体つきに可憐と言える容姿をしている友人は、学園始まって以来の奨学生で、高校から入学してきた。  入学式の時、知り合いもいなくて心細いだろうと思った亮が、声を掛けたのがきっかけで……友達となった日向も交え、学校では大抵三人で行動している。  佑樹は人見知りだから,仲良くなるには時間がかかると思っていたから、最初から打ち解けたのには驚いたけれど、日向が纏う裏表のない素直な空気を敏感に感じ取ったからなのかもしれない。 「昨日は元気だったのに……大丈夫かな?」  心配そうな日向の声に、亮の心がチクリと痛む。  今日佑樹が休む事になったのは、間違いなく自分があんな事をしてしまったせいだ。 「ラインには、風邪としか書いてなかったからなぁ」  朝、佑樹に設定しているラインの着信音が鳴った時には、心臓が壊れるんじゃないかと思うほど……一気に心拍数が上がった。しかし、震える指で確認ボタンを押した亮の瞳に映った文章は、通常と変わらない簡素な内容で、 『風邪引いたから学校休む』 と書いてあっただけ。 「明日には、元気になってるといいね」  平常を装った亮の返答に、心配そうな面持ちをした日向が答える。  純粋な心配を滲ませている日向の姿に、本当のことを言えるはずが無い亮の心はジクジクと痛みだすけれど、それを口に出すことは絶対に出来なくて。 「ああ、そうだな」  そう言葉を返すだけで、亮には精一杯だった。

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