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 教室へと入ったところでクラスメイトから声を掛けられ、亮は廊下へと出て行ってしまう。  二人になったそのタイミングで日向が小声で聞いてきた。 「佑樹くん、何かあった?」 「何が?」 「もしかして……亮くんと、喧嘩した?」  いつもと同じ笑顔を向ければ、困ったような表情をしながら遠慮がちに尋ねてくる。 「え? してないけど、何か変だった?」  逆に佑樹が尋ねかえせば、フルフルと首を横へ振りながら「ちょっと思っただけだから、気にしないで」と慌てたように返事をした。そんな日向を見て佑樹は『ゴメン』と心の中で謝罪をする。  初めて出来た亮以外の友人に、できる事なら嘘は吐きたくなかった。だけど、あんなことを話したら、いくら優しい日向だって佑樹を軽蔑するかもしれない。  それに……そもそも相談できるような内容じゃない。 「もし喧嘩したら日向に相談する。だからその時は俺の味方になって」 「うん、僕でよかったら」  困ったような彼の表情をこれ以上見たくはないから、殊更明るく佑樹が告げると日向は微笑みを浮かべてくれた。その姿に佑樹の心が少しだけ浮上する。  予鈴が鳴り、自分の席へ着席すると廊下から戻った亮が前の席へと腰を下ろした。  一学期は苗字順になっているため、初等部の頃から自分の前が亮の席になることが多い。これまではそれが純粋に嬉しかった。 ――たけど、今は……。  好きな人の後ろ姿をずっと見ていられるこの環境が、かなり辛く感じられる。  きっと亮は気持ちが悪いと思っている。親友だと思っていた男から告白をされて、しかも後ろの席にいるなんて嫌じゃ無い訳がない。 『伝えられただけで幸せ』  せめてそう思えたら、思えるような伝え方が出来ていたら。  そこまで考えた所で、浮上しかけた気持ちがまた沈んでしまい、佑樹は机に突っ伏した。 ――伝えて、幸せになれる方法なんてありはしない。  亮はノンケで自分とは違うから。  長い長い片思いにはもう決着が付いてしまったけれど、自分の気持ちとの折り合いはそう簡単には付けられそうに無かった。

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