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「今日、先生に手伝いを頼まれちゃったから、先に帰ってもらってもいい?」
テスト最終日、いつものように「帰ろう」と声をかけた日向からの返答に、思いもよらなかった亮は心中激しく動揺した。
日向とはいつも途中までしか一緒には帰れないけれど、別れる場所から家までの距離が大した物じゃなかったから、今までなんとかなっていたのだ。
「待ってるから日向も一緒に帰ろうぜ。昼飯持ってきて無いだろ?」
どうにか一緒に帰ろうと、平静を装いながらも必死に紡いだ亮の言葉も、笑顔を浮かべた日向によって素気 なく断られてしまい、頭の中が真っ白になる。
――って、事は……つまり。
「分かった。日向がんばってね。亮、帰ろう」
簡単な答えをなかなか導きだせない亮の背後から、決定打が突きつけられた。
「また来週」
笑顔で手を振る日向のことを恨むのは筋違いだ。そんなことは分かっているけど。
二人きりで下校するのは久しぶりで、並んで歩く道のりは今日に限って全く会話が無かった。
いつもなら、適当なテレビや家族の話題を振ってきてくれるはずの佑樹が、どういう訳かずっと沈黙を続けていて、亮も何度か話をしようと口を開いてみたのだけれど、上手い糸口が見つからない。
本当は、何でもいいから話がしたいと思うのに、心拍数がどんどん上がって佑樹の方を見ることすら出来なくて……そんな自分を情けなく思い、亮は掌をギュッと強く握り締めた。
――意識し過ぎだ。
「意識し過ぎだよ」
思った言葉が耳からも聞こえて驚いた亮は思わず「へ?」と、素っ頓狂な声を上げる。
「意識し過ぎって言ったの。亮は、分かりやす過ぎるよ」
続けて聞こえてきた声に、さっきの言葉も佑樹が放った物だったのだと今度はきちんと理解できた。
「何の事だよ。俺は別に……」
意識なんてしていない……そう続けようと思った言葉は佑樹の声に遮られる。
「不器用な亮には無理だって、あんな事があった後で普通になんか戻れないって、本当は分かってた」
あの日の事が話題に上がるのは初めてだった。
思い詰めたような声音に、亮は必死に言葉を探す。
「そんな事無い。俺は意識なんか……してないって言ったら嘘になるけど、ちょっとビックリしただけで、あと少ししたらちゃんと普通になれると思う」
何かを間違えてしまったら、彼が離れていくのではないか? と、長い付き合いで培ってきた直感が亮に告げている。
「亮は優しいから、こんな俺でも一応幼馴染みだから、突き放す事が出来ないのも分かってる」
「……佑樹、お前、何言ってんだ?」
意味が分からなかった。
突き放すなんて思いもよらない言葉を聞いて、亮の頭は軽く混乱しはじめる。
「今まで、気持ち悪い思いさせて……諦め悪くてホントにゴメン。亮から言われるまでは側にいたいって思ってたけど、これ以上は無理みたい」
「無理って、なにが……」
別れ話をされているような状況に、胃の奥のほうが重たくなった。
どう対応すればいいか迷うあまり、返事もろくに出来なくなった亮の前へと、佑樹が突然回り込んでくる。
「……佑樹?」
進路を絶たれて足を止め、不思議に思った亮が名前を呼んだ瞬間……佑樹が頭を深く下げた。
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