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「今まで、長い間守ってくれて、一緒にいてくれて、ありがとう。俺はもう一人で大丈夫だから、亮は何にも気にしないで」
「なっ……ど……して?」
驚きに、呂律がうまく回らない。
色んな事があったけれど、今までは何があっても結局は元通り、親友同士に戻れていた。
――今回だって……。
時が経てば解決すると思っていたのに、いきなり彼から突き付けられた絶縁宣言とも聞き取れる内容に、亮の心はズキズキと激しく痛みはじめる。
「……冗談だろ?」
「冗談なんかじゃない。来週から、ただのクラスメイトだから」
そう言いながら顔を上げた佑樹は笑みを浮かべていて……こんな状況だというのに、久々に正面から見た彼の笑顔があまりにも清々しかったから、亮は思わず目を細めて声も出せずに魅入ってしまった。
「じゃあね。バイバイ」
声に弾かれて我に帰ると、振り返って走り出した佑樹の背中が瞳に映る。
「佑樹っ!」
出会ってから初めて感じたえもいわれぬ焦燥感。
声を掛けても止まること無く離れていく彼の姿は、自分を拒絶しているように見えてしまう。
怖じ気づき、一瞬だけ動きを止めた亮だったが、それでも佑樹の後を追って懸命に走りだした。
――今追いかけないと、大切な物を失っちまう。
それだけは、亮にだってはっきりと分かっていたから。
***
「佑樹っ!」
背後から自分を呼ぶ亮の声が聞こえるけれど、振り返らずに佑樹はひたすら家へ向かって走っていく。
――どうして? なんで綺麗に終わらせてくれないの!?
ありったけの作り笑いで、綺麗に幕を引けたはずなのに。
涙なんか、見せる訳にはいかないのに。
「待てよっ!」
少しずつ近づいてくる自分を呼ぶ亮の声に、慌てた佑樹は滲んだ視界をクリアにすべく、片腕で涙を拭うと更に走る速度を上げた。
――なんで、追いかけて来るんだよっ!
何か文句を言いたいのか?
それとも自分が急に逃げたから、本能的に追って来ているだけなのか?
亮の事だから多分後者だと思いながらも佑樹は必死に脚を進める。
既に家の外壁沿いを走っている状態で、角を曲がって門から入れば情けない自分の顔を亮に見られなくて済む。
――もう少し……。
久しぶりの全力疾走に足が絡まりそうになるが、それでも何とか門の所へと辿り着き、通用口をくぐり抜けてから扉を閉めて鍵を掛けた。
「……ハァ…ハァ……くっ…ううっ」
荒い息を整えながら、佑樹は必死に涙を拭う。扉の向こうはシンとしていて、亮の声はもう聞こえてはこなかった。
諦めたのか? 我に返って追いかけるのを止めたのか? どちらにせよこれで本当に亮とはただのクラスメイトだ。
――せめて、今日だけは。
幸いな事に明日は土曜日。今から泣いても月曜日には普通に登校できるだろう。
使用人に見られる前に部屋へ入ろう思った佑樹は、足早に離れの自室へと歩きだした。
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