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織間家は代々続く医師の家系で、父親は隣接している総合病院の経営者であり院長だ。
母屋は純和風の邸宅で、離れに当たる平屋住宅は洋風に造られており、何年か前までは次男の楓が使用していたが、家を出るのをきっかけに末子の佑樹が譲り受けた。
もともと多忙でそんなに触れ合う機会も無い家族だが、こんな時に顔を見せなくて済むのはとてもありがたい。
沈み切った気持ちのまま少しの距離を歩いた佑樹は、鼻を一つ啜り上げ、鍵を使ってドアを開くと玄関へ足を踏み入れた。
と、その時。
「っひっ……!!」
突然、横合いから伸びてきた手にガシリと肘を掴まれて、驚いた佑樹は思わず声を上げてしまう。
「なっ……何で!?」
「驚かせてごめん。佑樹足が速いから、そこの壁、登って来た」
「馬鹿っ、お前、何してっ……!」
外壁には鉄条網が三重に張り巡らせてあるから、いくら亮の運動神経が良いといえども、彼が無傷とは考え辛い。
「怪我……してない?」
無意識に掴まれていない方の手を伸ばし、亮の手首を掴んだ佑樹はその掌を見た途端、自分の血の気がサァっと引いていくのを感じた。
「血が……こんなに!」
「あ、ああ……急いでたから」
「早く手当てしないと」
焦った佑樹は亮の手首を掴んだまま玄関の中へ引っ張り込むと、そのまま彼をリビングへと連れていく。
すぐに救急箱を出して手当てを始めた佑樹は、その途中ふと我に返りはしたのだが、今さら止める訳にも行かず、動揺を見せないようにどうにか処置を終了させた。
「出血が多かっただけで傷はたいしたことないから、風呂のあとは絆創膏で大丈夫だと思うよ」
「ありがとう」
「別に……いいよ」
だから早く帰って欲しい。
ソファーに座った亮の足元に跪いた状態で、夢中で手当てをしていた佑樹は、そっと手首から指を離す。
「これからは、あんま無茶しない方がいい」
冷静さを装いながら、今にも溢れそうな涙を歯を食いしばって堪えたけれど、語尾が微かに掠れてしまった。
「これからは……気をつける」
それに対する亮の返事に顔を見ないで頷くと、何とか気持ちを紛らわそうと救急箱へ手を伸ばす。
そして……距離を取るために立ち上がろうとした瞬間、亮の腕に体をフワリと包まれた。
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