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「……ごめん」  中途半端なその優しさが、佑樹の心を傷つけるのだとようやく気づいてくれたのか? 呟くような小さな声で亮が謝罪を口にした。 「亮は悪くない。俺が、あんな事しちゃったから……」  言いながら……あの日の出来事を思い出し、佑樹は言葉に詰まってしまう。 「離れたくないって亮の言葉、嬉しかった。でも今は、親友でいられる自信……無い。だから……」 ――もう、俺の事は放っておいて。  しかし、懸命に絞り出そうとした最後の言葉は紡ぐことができなくなった。なぜなら、伸ばされた亮の手が脇へと差し入れられたから。 「やっ…なっ…なに……亮!?」  フワリと体が浮かぶ感覚に佑樹は一瞬瞳を閉じる。続けて背中に軽い衝撃があり、佑樹が薄く瞼を開くと、見下ろしてくる亮の背後に天井が見え、そこでようやく自分の体がソファーの上に倒されたのだと理解した。 「離してっ」  どうしても顔を見られたく無いと思った佑樹が暴れだすと、手首を掴む亮の指に更に力が込められた。  この期に及んで彼が一体何をしたいのか解らない。 「佑樹……お願いだから、聞いてくれ」  困ったようなその声音に、佑樹は思わず動きを止めて亮の方へと視線を向ける。と、いつになく神妙な面持ちをした顔がそこにあり――。 「佑樹が好きだ」  二回目の告白に、頭の中が真っ白になる。  さっきいきなり叫ばれた時には彼の顔を見ていなかった。  けれど、今……真っ直ぐにこちらを見つめる亮の瞳は真剣で、佑樹はそこから視線を逸らせなくなってしまう。 『信じられない』 『そんな筈ない』  頭の中には二つの言葉が交互に浮かんでいるのだが、まるで喉が張りついたみたに声を出す事も出来なくて。 「やっと、ちゃんと顔が見れた」  佑樹の抱えるそんな気持ちを知ってか知らずか、フッと微笑む亮の顔は僅かに頬が上気している。 「はっきりしなくて、勘違いさせて、ごめん。ずっと悩んでた。俺、分かんなくて……あれから、佑樹を見るとドキドキして、どうしていいか分からなくて、忘れたふりもできなくて……抱きしめたいとか、キスしたいとか思うようになって、こんな事、今までホントに無かったから、どうしていいか分からなかった」 「っ……」 「さっき、佑樹が走って行くの見て、嫌だって本気で思った。男とか女とか関係無く、俺、佑樹が好きなんだって気づいた」 「嘘だ」  同情だ。  ありえない。  そう思った佑樹が頭を左右に振ると、亮が片手を手首から離し顔の前へと近づけてきた。 「本気じゃ無かったら……こんな無茶しない」  包帯に少しだけ赤い色が滲んでしまっているのは、佑樹を持ち上げ手首を抑えたせいだろう。 「それに、好きでもない相手に……キスしたいとも思わないから」  亮の指が唇に軽く触れてきて、なぞるように指先でクルリと一周そこを撫でたあと、それは目元へと移動した。 「泣かせて、ごめん」  そっと目尻を拭われて、佑樹は自分が涙を流していることに気づく。 「……信じられない」  亮が嘘を吐くような人間じゃ無いと分かっていても、好きと言って貰えるなんて想像すらもしていなくて――

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