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目を覚ますとベットの上で、辺りはすっかり暗くなっていた。
「ん……何時?」
眠気まなこで時計を見ようと佑樹が体を動かした時、背中に何やら熱を感じて思わず小さく息を飲む。
「……っ!」
「どうした?」
ピクリと体が震えた刹那、声と共に抱きしめられて頭が一気に覚醒した。
「り……亮?」
「佑樹、起きたんだ……何か飲むか?」
戸惑っていると背後から聞かれ佑樹の顔が熱くなる。
「ど……して?」
キスの途中で意識が無くなり、気づいたらベットに二人で横になっているなんて、あまりに急な展開だから佑樹の頭は混乱した。
「ん? 佑樹がキスの途中で寝たから運んで、着替えは無理だから下だけ脱がした。それで起きるの待ってたんだけど、全然起きないから、泊まる事にして隣に寝た……それだけ、他には何にもしてない」
「あ……そうなんだ」
あまりに普通に話されたから返す言葉も見つからなくて、呆気にとられた状態ながらも返事をすると、亮がふぅっと息を吐く。
「ごめん、嘘。佑樹酸欠で意識無くして、テンパって歩樹さんに電話たらしこたま怒られた。そのうち起きるって言われたけど心配で、目が覚めるのずっと待ってた……で、抱き締めたくて布団に入った」
「……なんで、兄さんに電話?」
言われた言葉を反芻し、ようやく思考が戻った佑樹が振り返って亮を見ると、何ともバツの悪そうな顔をしている彼がそこにいた。
「だって焦って……医者の知り合い歩樹さんくらいしか……」
「何て言ったの?」
「キスしてたら意識無くしたって……だって嘘は言えないだろ?」
――ああ、そうだった。
馬鹿正直にも程がある。
きっと、さっきも咄嗟の嘘を吐き通せなくなってしまったのだろう。
「ごめん」
頭を下げて謝る彼に、佑樹は小さく首を振る。
恥ずかしくて話題を変えてしまったけれど、目覚めた時に亮が側にいてくれて、本当は凄く嬉しかった。
「いいよ。心配かけてこっちこそごめん。もう大丈夫だから」
そう告げながら視線を逸らし、「だから、もう帰っていいよ」と言った途端、いきなり耳を摘まれた。
「痛っ……何!?」
「素直じゃない」
本当は帰らないで欲しいと思っている事なんて、お見通しだと言わんばかりに下から顔を覗かれて、佑樹の胸がドキドキと音をたてて脈打ち始める。
「そんなこと……」
無いと言いかけた佑樹だけれど、近距離で目が合った瞬間、その真剣な眼差しに……言葉を止めてコクリと唾を飲み込んだ。
「まだ信じてくれない? 俺が佑樹を好きだって」
「……夢じゃないかって、思ってる」
これが全部夢だったら? そう考えると怖くなって素直になんかなれなくて……。
ポツリポツリと気持ちを話せば、亮は優しく頷きながら、時折頬や額にそっと軽いキスを落としてきた。そうする内に佑樹は自分の心を囲っている壁が、少しずつ取り払われていくような……そんな感覚に囚われる。
「亮……好きだよ」
思い切って告げた言葉で夢から覚める事は無く、逆に強く抱きしめられて、心の中が満たされていくのを佑樹はじんわり感じていた。
これまで色々な事があって、この先もきっと問題は起こってしまうのだろうけど。
――だけど今は、ただ幸せを感じていたい。
そう思った佑樹はゆっくり亮の方へと手を伸ばし、自分の気持ちを届けようと、顔を引き寄せその唇へとキスをした。
この先も、ずっと一緒に居られるよう……心を込めて。
END
ありがとうございました。
次は日向たちのお話です。
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