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「……帰りたくない」  そのまま手を引き浩也は歩き始めたけれど、日向が足を踏ん張って「帰らない」と繰り返すからなかなか前に進めない。 「何言ってるんだ。帰って寝ないと治らないだろ」  こんなに(かたく)なな日向を見るのは知り合ってから初めてだったが、状況が状況だけに浩也も後には引けなくて。 「あっ……」  少し強めに手を引くと、ふらりと揺れた日向の体が浩也の方へと倒れ込み、意図したわけではないけれど、抱きしめるような格好になってしまった。 「あっ、ごめんなさい」  熱のせいなのか照れているのか? 俯き加減で謝る日向の耳たぶが、みるみるうちに赤くなっていく。 「そんなに見たい映画なら、また見に来ればいいだろ? いい加減に……っ!?」  痺れを切らせ、そこまで言葉を紡いだところで浩也は思わず息を飲んだ。 「ヒナ、お前なんで……」 ――泣いてるんだ?  肩を震わせ僅かな嗚咽を漏らしはじめた日向の顔を、少し屈んで覗き込めば、その瞳からはポロポロと涙が零れ落ちていた。 「だって……浩也くんと、初めて……僕、楽しみにして……たのに……」  泣きながら話す日向の姿に内心酷く動揺しながらも、平静を装った浩也は小さな背中を撫でさする。 「だからって、ここまで無理しなくたって」 「だって、浩也くん……あんまり来たく無さそうだった。だから……」 ――ああ、そういう事か。  誘われた時に素気ない態度を取ってしまった自分のせいで、日向に無理をさせてしまった。その事に、ようやく思い至った浩也の胸に鈍い痛みが広がった。 「……帰るぞ、乗れ」  今すぐ日向を抱き締めて、そうじゃないのだと伝えたいけど、ここでは人が多過ぎるし、何より早く休ませなければ更に熱が上がってしまう。 「……わがまま、言って……ごめんなさい」  端的な言い方をしたから、怒っていると思ったのだろう。謝ってきた日向は歩いて帰ると言ったが、有無を言わせず浩也は彼をおんぶしてから歩きはじめた。  映画館の外へ出ると雨は綺麗に上がっていて――。 「これから……いくらだって、一緒に見に来れるだろ」  帰る道すがら、浩也が一言そう告げると、嗚咽が僅かに大きくなった。  また日向を泣かせてしまった。  いつも上手に伝える事が出来ない自分がもどかしい。 ――触れた所からこの気持ちも、伝わればいいのに。  そんなことを考えながら、唇をギュッと噛み締めて……とにかく早く家に帰ろうと浩也は急いで歩みを進めた。

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