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とりあえず日向の家へと連れ帰り、ベッドに彼を降ろしてからパジャマに着替えるように告げ、体温計と飲み物を探しに浩也は一旦部屋を出る。
去り際に、泣いたせいで朱くなった目元が見え、切ない気持ちが込み上げるけれど、今は何より日向の体が心配だった。
***
「8度6分か。喉は痛くない?」
「少しだけ。でも、大丈夫だよ」
「大丈夫な訳無いだろ。ほら、飲んで」
「……ん」
差し出した薬を口へと含んだ日向に水を渡す。
コクコクとそれを飲み込む姿に浩也は少し安堵して、ふぅっと息を吐き出した。
「ありがとう浩也くん。それから……ごめんね」
コップから口を離した日向が小さな声で謝ってくる。ぼんやりしていた浩也はハッと我へと返り、嗜めるように言葉を紡いだ。
「謝らなくていい。早く治せ」
頭を軽く撫でてやると、気が抜けたのか日向の瞳が眠たそうな色に変わる。
「楽しみに、してたんだ……初めて、映画いくの」
淋しそうに呟く彼の瞳から……新たな涙がポロポロと堰を切って零れ出た。
「泣くな。俺も楽しみだった、だけど照れ臭くて言えなかった。本当にごめん」
いつもは綺麗な日向の部屋に服が散乱しているのは、きっと今日着る洋服選びで相当悩んだせいだろう。
そんな日向の一途な気持ちにじわりと胸が熱くなり、浩也は優しく彼の瞳から流れる涙を指で掬った。
「元気になったら、また一緒に見に行こう」
「……本当、に?」
「本当だ。俺が一緒に行って欲しい」
照れる気持ちを押さえながらも本心を伝えると、それを聞いた日向の頬が赤みを帯びる。
「ほ……ほんと?」
「ああ、約束だ。だから今はもう寝ろ。起きるまで、ここに居るから」
指を握って囁けば、
「……嬉しい。ありがとう」
そう言いながらようやく笑顔を見せてくれた日向へと、小さく頷き返した浩也は、その愛らしい唇をそっと自分のそれで塞いでから、いつもは照れてなかなか言えない一言を、彼の不安を取り除くためにそっと耳元で囁いた。
「愛してる」
と。
END
次は梓のお話になる予定です。
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