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対等④
服を着て立ち上がり住田さんへ頭を下げると
そのまま何も言わずにドアを開けた。
もうやってらんない。
止めてやる。こんな事。
廊下をどんどん歩きエレベーターのボタンを押す。
ドアが開いて中に乗り込もうとした腕を
ぐいっと掴まれた。
「ビジネスだろう。逃げだすのか。」
伊織さんが上から俺を見下ろし
馬鹿にしたようにそう言った。
その手を振り払い逆に睨みつける。
「ビジネスならきちんとした説明を
先にするものなんじゃないんですか。
一方的に振り回して言う事を聞けというのが
あなたの普段のやり口なんですか?」
いくら俺がたかだか喫茶店のマスター如きでも
見下される覚えはない。
「あなたと俺。上でも下でも無い筈ですけど。
ビジネスだって言うのならまずそっちの
態度を改める事が先でしょう。違いますか?」
シンとした廊下に響き渡るほどの大声で
怒鳴りあげると 伊織さんは目を丸くして
ぽっかりと口を開けた。
慌てて沢木さんが近寄ってくる。
「柚くん。ごめんね・・。あのさ・・。」
「俺は!」
遮る様に声を上げる。
沢木さんがぐっと黙ると
「俺はこの人に聞いてるんです。
伊織さん。どうなんですか?」
指を差し もう一度正面に立つ男を睨みつけ
答えを迫った。
しばしの沈黙。
こういう沈黙・・・実は苦手。。
言い過ぎたかもともう後悔し始める。
我慢強い方ではあるんだけど
限界を超えるとそれまでの鬱憤が
一挙に口から放出されちゃって・・・。
でもさすがに謝る気にもならない。
エレベーターのボタンをもう一度押すと
ドアが開いた。
中に乗り込もうとするとまた腕を取られる。
伊織さんは顔をこれでもかとしかめながら
「・・・・すまなかった。」
蚊の鳴くような声でそう謝った。
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