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対等⑥

「わかりました。もういいです。」 納得すれば切り替えは早い方だ。 普段からそうしていない人にそうしろって 言ったってそれこそ無理だし。 「・・・もういいのか。」 伊織さんは少し驚いたようにそう聞いてくる。 「いいです。した事ない人にしろって 言ったってそれは無理でしょ。 気にしないようにしますからもういいです。」 話をして少し空気が軽くなった気がする。 っていうかこの人と会話を交わしたのって こうなってからもしかして初めてかな・・。 変なの。 仮にも恋人って設定なのに。 「俺。思うんですけど。」 煙草の煙をご丁寧に外に向けて 吐き出している伊織さんに顔を向けた。 「ああ。」 「このビジネスにおいて。伊織さんにも 問題があると思うんですよね。 あんな口調で会話する恋人同士なんて 絶対いないと思うんですけど。」 伊織さんはまたくしゃっと顔をしかめた。 「・・・恋人同士の会話とは何だ。 会話に違いがあるとも思えない。」 へ。。。 この人って。 「今までどうしてたんですか? 恋人にもその口調でずっと?」 そんなんで耐えられる人なんているのかな。 ああ。だから上手くいかないとか・・。 「まず恋人の定義とは何だ。 何をもってして恋人と名付ける。 飯を食い関係を持つ事を恋人というのならば 今までのその恋人とやらとも同じだ。」 伊織さんは開き直った風も無く 当たり前の様にそう言い切った。 またぽかんと口が開いちゃったのか バックミラー越しに運転手さんと目が合う。 すまなそうに頭を下げられ 急いで口を閉じた。

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