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対等⑩
「なんだそれは・・。」
「温まりますよ。騙されたと思ってどうぞ。」
先にコップに口をつけ 飲んで見せる。
あー。旨い。
勝さんのおでんは勿論種も旨いけど 出汁が命。
少し味が濃い目で焼酎を割ると 身体に出汁が
染み渡る様で ポカポカしてくる。
「やっぱ勝さんのおでん出汁。サイコーだあ。。」
お世辞じゃなく本心。
一日中立ちっぱなしで疲れた身体へのご褒美。
伊織さんはまたしばらく躊躇し それでも
好奇心には勝てなかったのか恐る恐る口をつけた。
ゴクっと飲むと 目を瞑り クックッと笑い出す。
アレ。
なんかダメだったかな。
「伊織さん。。あのー。。」
「何でこんな物がここまで旨い。
意味がわからない。だが旨い。」
あっという間に飲み干すと コップをむんずと
勝さんに渡す。
「こんな物って。。勝さん。すいません。」
急いで謝ると 勝さんはニコニコと笑った。
「なーに。構わねえよ。お客さんにしたら
こんな物だろうしなあ。こんな高そうな時計
してる人を連れてくるんだから 柚ちゃんも
人が悪いな。でもいい飲みっぷりだね。」
そう言って また焼酎の出汁割を作り 伊織さんに
渡してくれる。
流石にマズかったと思ったのか 伊織さんは
頭を掻き すいません。とちゃんと謝った。
三人で笑い出す。
良かった。
楽しい。
この人とちゃんと話が出来るようになった気がする。
初めて笑顔も見れたし。
「じゃあ。俺もお代わり。」
コップを出すと 勝さんはいつもの通り
「あいよ!」と言って 焼酎の出汁割を
入れてくれた。
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