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対等⑭

「何もちゃんと説明しないで進めちゃったからね。 この間 柚くんに怒られてさ。 伊織かなり凹んでたから。 アイツ。口調はあんなだけど悪気は無くて。 とはいえ嫌な思いをさせて悪かったね。」 「いえ。こちらこそキレてすいませんでした。 伊織さん。あの後 もう一回ちゃんと 謝ってくれたんです。」 ああ。そうなんだ。と少し驚いたように 沢木さんは目を見開いた。 「どうしてもああいう口調だからね。 良く思わない奴も多いんだけど だからって弁解をする奴でもないからさ。」 まあ。そうだろうな。 基本的に我が道を行くタイプな感じ。 でも。。 「うーん。でもちょっと思ったんですけど。 伊織さんって立場的にそうだから ああいう物言いなだけで結構素直なのかなって。 勧めた物全部結局食べてくれましたし 旨かったら旨いってちゃんと言ってくれて。 ああ・・。こんにゃくだけはダメだったかな。」 これは食い物か。って真面目な顔して 聞かれた事を思い出し口元が緩む。 「帰る前にシャワー入るかって聞いたんですけど。 汚いとか狭いから嫌だとか言われんのかなって 思っても何も言わないし 出した俺の服 文句も言わずに着て。 スーツはオーダーとか言ってた人が そんなだったから ちょっと面白かったです。」 へえ。。 沢木さんはまた驚いたように声を上げた。 「伊織がね。それは俺も少し意外だな。」 くすくすと笑うと そうか。。と呟いた。 なんだか少し喜んでいるように見える。 不思議に思ったのがわかったのか 沢木さんは言葉を続けた。 「まあ。プライベートな事だからね。 あまり俺が話すのもどうかとは思うんだけど こういう事を頼んでいる訳だし 伊織が話すとも思わないから一応耳に入れておくよ。 洲崎ってのは由緒正しき家柄でさ。 勿論本来アイツはその跡取りになるんだけど 出がね・・・。」 「出?」 なんだろう。出って。 うん。と沢木さんはお代わりのコーヒーに 口をつける。 「伊織は妾の子でね。母親が伊織を生んだ後 すぐに引き離されて本家に連れてきた子供なんだ。 正妻との間に子供が居なくてさ。 実の母親とは数回しか会わせて 貰えなかったらしい。」 え。。 「それって・・。」 「うん。まあ つまりアイツは物心ついた時から 知らない人の中で育ってるんだよね。 父親も家には全く居ない人だったみたいで。 ちゃんと愛情をかけて貰っていないっていうのかな。 ましてや妾の子だし。 風当たりはかなりきつかっただろうね。 俺はただ跡を継ぐためだけに生かされている。って 一度俺にそう言った事があってさ。」 そんなの・・。 「・・・ひどくないですか?それって・・。」 「まあね。でも本家ではそれが当たり前。 それが正論で通ってるから。 伊織にとってもそれが当たり前なんだよね。」 沢木さんは ふう。と息を吐き出した。

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