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対等⑯
「そんな生い立ちだからね。
愛情っていうものがよくわかってないのか
誰とも上手くいかないんだよね。
実際近寄ってくるのも金目当てとかが多いのは
確かで 今までも色々あったからさ。
最終的に欲を吐き出せれば男も女も
関係ないって言うのが口癖になっちゃって。
でも。この間は珍しく楽しかったみたいだな。
あんな風に朝帰りとか初めてかもね。
聞かないと何も話さないけど。」
沢木さんはニコッと笑みを浮かべ
立ち上がり財布を出した。
「さっきも言った通り本家はまだ疑っていて
縁談を諦めてはいない。
今日アイツが呼び出されているのも
様子伺いだからね。
2カ月後に父親の還暦祝いがある。
向こうはそこで親戚一同の前で縁談に合意させようと
企んでるらしい。で、伊織は君を連れて行って
逆に正式に断ろうとしているって訳。
だから その日までに恋人らしく見えるよう
お互いの摺り合わせをする時間を取ってくれるかな?
俺も勿論手伝うからさ。ね。」
そう言う意味での2か月なんだ・・。
「・・わかりました。」
うん。と沢木さんは頷いて金を払うと
ドアへと向かう。
ああ。そうだ。と言って 立ち止まった。
「その鳩時計。今 業者を探してる。
こっちは2カ月待たなくても見つかり次第
手配は取るからね。アイツはあんなだけど
約束は守るよ。じゃあね。」
沢木さんはまた手をひらひらと振ると
ドアから出て行った。
皿を下げて洗いながら 今聞いた話を思い返す。
よくわかんないけど。
やっぱりちょっと可哀想だよな。
人それぞれの幸せがあるんだろうけど
いくら金持ちで偉くったって。
まあ。2カ月間だし。
その間は出来るだけ協力するかな。
結婚まで仕組まれた通りなんて 流石に酷すぎる。
そんな事を考えながら お客さんの対応を
しているうちに 気づけばクローズ30分前。
今日はもうこれくらいかな。
片付け始めるか・・。
洗ったコップを拭いていると カランとベルが鳴り
開いたドアから伊織さんが入ってきた。
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