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対等⑳
「俺は普段口にする物の味の変化を好まない。
だからこそ同じ物を頼む。
そういった客の思考が読めないのは
オーナーとしても配慮に欠けると思うが。」
そう言いながらコーヒーを全て飲み干し
カップを置いた。
たった一杯のコーヒー。
その一杯に駆ける思いが薄れてきていたのかも。
日々やっているだけで
だんだん慣れてしまってたんだ。
これだけでそこまで見抜かれた。
沢木さんが伊織さんは仕事が出来るって
言ってたけど ホントなんだな・・。
ダメだ。こんなんじゃ。
気合を入れる為にパンパンと頬を叩くと
伊織さんはぎょっとして俺を見つめる。
「すいませんでした。
もう一回気を引き締め直して頑張ります。」
深々と頭を下げた。
やり直しだ。
ちゃんと考えて毎日やらないと。
少し出来る様になったからって
それがゴールじゃないし。
うん。
伊織さんは またじっと俺を見つめると
ふっと口元を緩める。
「この間も思ったが 君のその切り替えの早さは
長所だな。」
そう言って立ち上がり俺に金を渡すと
そのまま店を出て行った。
時計を見上げるとちょうど30分。
クローズ前にキチンと店を出る。
完璧ですね。
対等に扱って貰った気がする。
ビジネスにおいて 対等。
俺がそう言ったからだな。
閉まったドアに向かって深々と頭を下げた。
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