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ビジネス①

「おでんの屋台に連れて行け。」 伊織さんは店に入ってくる早々 仁王立ちでそう迫った。 へ。 柚はぽかんと口を開け カウンターを拭いていた 手を止める。 「勝さんのとこですか? ああ。でも今日は定休日ですよ。」 珍しくクローズ前に顔を出したと思ったら いきなりだもんなぁ・・。 でも本当に今日は定休日だから屋台は出ていない。 参ったな。どうしよう。 沢木さんが他に連れて行ってもダメだったって 言ってたし・・・。 だけどこの人 なかなか納得しそうにない。 そういう人だってのは短い付き合いの中で 嫌っていうほどよくわかった。 なんだろ。 嫌な事でもあったのかな。 この前もそうだったけど今日は更に ご機嫌斜めの雰囲気・・・。 うーん。 どこか他の所・・・。 ああ。そうだ。 「上に行きます?」 天井をツンツンと指差した。 「上? 上に店があるのか。」 まあ。ある訳ないよね。 「違います。屋上。 簡単な物で良ければつまみくらいならすぐ作るんで 宅飲み・・・じゃないか 屋上飲みとかどうですか? その窓より綺麗に川も見えるし 結構気持ちいいですよ。」 もうすっかり空気は夏。 夜も暖かいし 昨日も仕事終わりに 一人で川を眺めながらビールを飲んでいた。 気持ちいいんだよね~ 都会とは思えないくらい いい風が吹いて。 じいちゃんがこだわって作った屋上で ビル側はビル風が出来るだけ入らない様に 壁が立っていて 川側はストンと視界が抜けている。 ガキの頃は家族でバーベキューしたりしたなぁ。。 あの頃はこんなにビルも建っていなかったし。

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