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ビジネス⑧

一杯380円のワインで全然文句も言わない。 でも美味しくなかったら 絶対に飲まない。 値段で良し悪しを決めない。 その姿勢は一貫してて 気持ちがいいくらい。 なんか楽しいや。 変なの。 あんなに憂鬱で嫌だったのに。。 嫌な人だと思ったのに。 一緒に居ると心地良い。 キツイ事を言われても なんかすっと入ってくる。 何でだろ。 不思議だなぁ。。 こんな風に誰にも思った事無かったかも。 川面が光を反射し キラキラと揺れる。 気持ちいい風が髪をくすぐり ザッと後ろに 掻き上げた。 なんだか視線を感じ 横を見ると伊織さんと 目が合う。 ドキンと心臓が跳ねた。 まただ。 変だ。俺。 飲み過ぎたのかな。 太い腕がゆっくりと伸び 手が髪を触る。 くしゃっと掻き混ぜられ 更に心臓がドキドキと 激しい音を立てる。 やだ。 なんだよ。これ。 って。 嫌じゃないのが嫌だ。 後頭部を大きな手が覆い グイッと引き寄せられる。 唇が近づき 思わず目を伏せると 生暖かいものが 押しつけられた。 え。 キスされてる。 俺。 キスされて・・・。 そっと離れたのを感じ ゆっくりと目を開けた。 伊織さんの顔が目の前。 ヤバイ。 すごいかっこいい。 ってそれだけじゃない。 素直に感情を真っ直ぐに向けてくる熱を帯びた瞳。 ・・知らない。 こんなの・・心臓が持たない。 「あ・・あの。いくら恋人のフリって言っても これは・・やり過ぎじゃ・・。」 自分の戸惑いを打ち消すようにそう言ってみる。 伊織さんは 俺の腰に腕を回し ぎゅっと引き寄せた。 「沢木に言われただろう。恋人同士に見えるように ちゃんと擦り合わせをしろと。」 その言い方が あくまでもこれはビジネスだと 聞こえる。 そうだった。 これはビジネス。 鳩時計を直してもらう為・・。

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