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ビジネス⑯
「ありがとうございました。」
柚は最後の客を送り出し
看板をクローズへとひっくり返す。
表の電気を消して カウンターの中に戻ると
椅子にぺたんと座りこんだ。
一日何やってるかわかんなかったな・・。
タケルが異常を感知して気を回してくれたから
助かったけど・・。
昼のラッシュが終わって
「一体どうしたんすか? なんかもう
心ここにあらずでしたけど。」
って問い詰めるように聞かれて。
どうしたもこうしたも。
俺がどうしたのか知りたいってーの。。
返事が出来ずにいると 意味深に
ちろっと視線を寄越し
「ずーっとそうやって唇むにゅむにゅ触って
ぼーっとしてんだもん。なんかあったなって
誰だって思うって。」
呆れたようにため息をついた。
唇むにゅむにゅ・・・・。
ハッと口元にあった手を外す。
バカ・・。
何思い返してんだ。いい年して・・・。
当たり前だけど 初めてじゃない。
彼女だって何人か居たし それなりの事も
一般男性としては普通に経験がある。
たまたまちょっとここの所ご無沙汰だっただけで
なんでこんなに動揺する?
ビジネス。
伊織さんだってそう言ってて・・。
恋人としての雰囲気を出す為のいわば役作り。
そう俳優とかしょっちゅうキスシーンしてんだろ。
それと一緒。そう。一緒・・・。
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