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ビジネス㉒

言い返すかなと思ったが 伊織はぐむっと口籠る。 意味が分からなくても本当に何か 悪い事を したのかもしれないとは 自分で認めてるんだな。 「柚くんは多分 好意でお前にオムライス作ったり 一緒に酒飲んだりしてくれたんじゃないの。 それをビジネスだから金を払うって言われたら やった意味が無くなっちゃうよね。」 好意・・。 そう呟き 眉間にしわを寄せる。 まあね。伊織の周りにただ好意だけで 何かをしてくれる奴なんて今まで一人も居なかった。 そこには必ず打算があり だからこそ 伊織は簡単に人を信用しない。 そこに非はないけれど そうじゃない人も居るって事を いい機会だから知るべきだな。 「・・確かに。彼は友達に飯を作って食べさせるのと 感覚が近く これは労働じゃないと 言っていたが・・。」 「ああ。言ってたんだ。 だったら尚更ビジネスだからって言われて ショックを受けたんじゃない? きっとそういうつもりじゃ無かったんだろうね。 最初のスタートはそうでも 仲良くしている内に 損得抜きで 付き合う事もあったりするよ。 俺も結構そうだと思うんだけど?」 そう言われてなんとなく繋がったのか 途端に後悔が表情に現れた。 「・・彼を傷つけたのか。」 ぽつりとそう呟いた。 思わず息を飲む。 へえ。そんな風に取るとは思わなかったが。 笹目さんも驚いたようにぴくっと肩を震わせた。 まあ。そうだよね。 誰がどう思おうと伊織には関係なかった。 自分が思うように。 それが全てで それが絶対だったのに・・・。 この【ビジネス】がこんな副産物を生むとはな。 「そう思うんだったら一度ちゃんと話した方が いいかもしれないね。柚くんもきっと気分悪い 思いしているかもしれないし。 まだ継続するなら余計 それこそ擦り合わせは 必要だと思うけど。」 伊織はじっと考え込み 笹目さんに向かって 「鳩時計へ行ってくれ。」と言った。

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